うやつは……」
ラツールは地震が大きらいであった。玉太郎としっかりだきあって、目をとじ、神様にお祈りをささげた。
そのような地震が前後四五回もつづいた。そしてそのあとは起らなかった。いずれも短い地震で、三十分間つづいたのはその長い方だった。
地震とともに、沼の水面に波紋が起ったことは前にのべたとおりだが、二度目の地震のときは、その波紋の中心にあたるところの水面が、ぬーッともちあがった。
いや、水面がもちあがるはずはない。水の中にもぐっていたものが浮きあがったのであろうが、その色は赤黒く、大きさは疊三枚ぐらいもあり、それがこんもりとふくれあがって河馬《かば》の背中のようであったが、河馬ではなかった。
というわけは、その茶褐色《ちゃかっしょく》の楕円形《だえんけい》の島みたいなものの横腹に、とつぜん窓のようなものがあいたからである。その窓みたいなものが、密林のしげみをもれる太陽の光線をうけて、ぴかりと光った。
それは一しゅんかん、探照灯《たんしょうとう》の反射鏡のように見えた。それからまた巨大なる眼のようにも見えたが、まさか……
が、とつぜんその赤黒い島は、水面下にもぐってしまった。その早さったらなかった。電光石火《でんこうせっか》のごとしというたとえがあるが、まさにそれであった。
それのあとに新しい波紋がひろがり、それからじんじんゆさゆさと、次の地震が起ったのであった。
いったい沼のまん中で浮き沈みした赤黒い島みたいなものは、何であったろうか。
玉太郎もラツールも、目をつぶってだきあっていたから、この重大なる沼の怪事《かいじ》をついに見落としてしまった。このことは二人にとって大損失《だいそんしつ》だった。
地震がもう起らなくなったので、二人はようやく手をといて、立ち上った。
「いやなところだね。赤道《せきどう》の附近には火山脈《かざんみゃく》が通っているんだが、この島もその一つなのかなあ」
ラツールは首をひねった。
「しかしラツールさん。地震にしては、へんなところがありますねえ」
玉太郎がいった。
「へんなところがあるって。なぜ?」
「だって地震は、たいてい一回でおしまいになるでしょう。何回もつづく場合は、はじめの地震がよほど大きい地震でそのあとにつづいて起る余震《よしん》は、どれもみなくらべものにならないほどずっと小さい地震なんでしょう。と
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