をいった。
玉太郎は、ひりひりと焼けつきそうなのどを気にしながら、ふらふらとした足取で仕事をつづけた。
「うわッはっはっはっ。うわッはっはっはっ」
とつぜんラツールが、かかえていた椰子の枯草を前にほうりだして、大きな声をたてて笑いだした。玉太郎はおどろいてふりかえった。戦慄《せんりつ》が、せすじを流れた、頼みに思った一人の仲間が、とつぜん[#「とつぜん」は底本では「とくぜつ」]気がへんになったとしたら、玉太郎の運命はいったいどうなるのであろうと、気が気でない。
椰子《やし》の実の水
「うわッはっはっはっ。うわッはっはっはっ」
ラツールの笑いは、まだやまない。
「どうしたんです。ラツールさん。しっかりして下さい」
「大丈夫だ、玉ちゃん。うわッはっはっはっはっ」
ほんとうに気がへんになっているのでもなさそうなので玉太郎はすこし安心したが、しかしその気味のわるさはすっかり消えたわけではない。
「ラツールさん。気をおちつけて下さい、どうしたんです」
「むだなんだ。こんなことをしても、むだなのさ」
やっと笑いやんだラツールが、笑いこけてほほをぬらした涙を、手の甲《こう》でぬぐいながら、そういった。
「何がむだなんです」
「これさ。こうして枯草をつみあげても、だめなんだ。すぐ役に立たないんだ。だって、そうだろう。枯草の山ができても、それに火をつけることができない。ぼくは一本のマッチもライターも持っていないじゃないか。うわッはっはっはっ」
「ああ、そうか。これはおかしいですね」
玉太郎も、はじめて気持よく笑った。いつもマッチやライターが手近にある生活になれていたので、この絶海《ぜっかい》の孤島《ことう》に漂着《ひょうちゃく》しても、そんなものすぐそばにあるようなさっかくをおこしたのだ。
「第一の仕事がだめなら、第二の仕事にかかろうや。この方はかんたんに成功するよ。ねえ玉ちゃん。腹いっぱい水を飲みたいだろう」
「ええ。そうです。その水です」
「水はそのへんに落ちているはずだ。どれどれ、いいのをえらんであげよう」
玉太郎は、ラツールがまた気がへんになったのではないかと思った。なぜといって、見わたしたところ、そこには川も流れていないし、海には水がうんとあるが、これは塩からくて飲めやしない。井戸も見あたらない。
ラツールは林の中にわけいって、ごそごそさがしも
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