る扉の蝶番《ちょうつがい》のあるところは、もとネジで柱にとめてあった。その柱が木ネジといっしょに扉の方へひきむしられて、ひんまがったまま水中につかつているのだった。
 これが大きな柱だったり、鉄材に木ネジでとめてあるのだったりすれは、木ネジの方が折れてはなれてしまったことであろうが、その船は、ちゃちな艤装《ぎそう》のために、鉄材と扉の間にすきが出来、厚さ三四センチのうすい板の柱のように間につめこんであったのだ。だからこの板は、扉といっしょにはなれるのだ。
 玉太郎は、水中に手を入れ、この板柱をはずして筏の上にあげた。長さは二メートルはある。手頃《てごろ》の柱だ。
 こうして材料はそろった。
 玉太郎は、これらのものを使って、筏のまん中に、板の帆をもった柱をたてた。涼《すず》しいかげができた。
「ポチもここへこい。ああ、ここにおれば楽だ」
 玉太郎は、かげにはいって、生きかえったように思った。
 書けば、これだけのかんたんな仕事であったが、これだけのことに、たっぷり二時間もかかった。
 涼しくはなったが、いよいよ腹はへってきて、やり切れない。のどもかわく。
「ラツールさんも困っていることだろう」
 彼はラツールさんに同情をして、その筏の方を見た。
「おや、ラツールさんも、かげをこしらえたよ。ふーン、あの筏は、だいぶんこっちへ近くなって来たが……」
 ラツールの筏の上には、白い布《きれ》が柱の上に張られた。それは帆として働いている。ラツールのところには、なかなか布があるらしい。見ているうちに、また新しい帆が一つ張られた。
 それがすむと、ラツールは、筏の上から、しきりに手まねをして、こっちへ何かを通信しはじめた。
 それは何事だか分らなかったが、いくどもくりかえしているうちに、意味がわかりかけた。
“おーい、元気を出せ。僕はこの帆を使って、この筏を、そっちへよせる考えだ”
 ありがたい。二人とも別々に海流の上にのって、どこまでも別れ別れに流されていく外ないのかと思っていたのにラツールの努力によって、二人は筏を一つに合わせることができそうだ。ああ、ありがたい。
 玉太郎は、ラツールにお礼の意味でもって、それからしばらくポチにほえさせた。
 ラツール氏は手をふって喜んでいる。


   筏《いかだ》の補強《ほきょう》


 ラツール氏の筏は、どんどん近づいた。
 氏はヨット
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