灯で、ケンが中を照らしてみると、奥は広くなっており、天井も高くなっていた。たしかにこの中は人工が加えていることがわかった。岸壁も、のみでけずって、中をひろくしたにちがいない。けずられた小さい石塊《せっかい》が、がさがさと靴や膝の下に鳴る。
 だんだん奥にはいったが、入口から七八メートルに行ったところで、行きどまりになっていた。壁のまん中に、舷窓《げんそう》ぐらいの穴が一つあいていた。そのあたりは、やや高くなり、壁も垂直に削《けず》ってあったが、ほりにくいせいか奥行のせまい棚《たな》のようになっていた。
 ケンは、いちばん奥のところへあぐらをかくと、
「ここでしばらく形勢を見守ることにしよう。とにかくここにもぐりこんで、おとなしくしていれば、恐竜に襲撃されることはないだろう」
 といった。
 一同もケンの説に同感して、安堵《あんど》の色をあらわした。
 この洞穴にも、怪獣のおそろしい咆哮《ほうこう》がひびいてきた。銃声はもうしない。
 いったい崖の上では、どんなことが起ったのであろうか。
 すべてはモレロのらんぼうと、そして彼と二人の水夫との慾ばり根性に発しているのだった。
 モレロと二人の水夫は、ロープにすがって、崖を中段まで下りた。それは、海中の岩の上のぴかぴか光るものに、すこしでも近づくためだった。
 モレロは、そのぴかぴかの正体をもう少しはっきり見きわめたいと思った。彼は二人の水夫のように、それが黄金色をした恐竜の卵であるなどとは思っていなかった。大昔の海賊が持ちこんだ金貨か黄金製の装飾品か武器のたぐいであろうと見当をつけていた。
 あいにくと、望遠鏡を持ってこなかったので、残念でしかたがなかった。そこで崖を中段まで下り、二人の水夫に命じて、小さい岩のかけらを、かのぴかぴか光るものに向って、力いっぱい投げさせてみたのである。それがうまくとどいて命中すれば、音がするであろうし、また位置をかえ、あるいははじきとばすであろう。それによって、ぴかぴか光るものが何であるかを、もっと正確に診断することができるはず――と、モレロは、彼らしい智恵をはたらかせたのであった。
 フランソアとラルサンは、水夫になって以来はじめて命じられたこの仕事を、とにかくはじめたのだった。上の崖から落としておいた岩のかけらを足もとからひろいあげ、
「えいッ」
「それッ」
 と投げつづけたのである
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