彼はうなる。
二人の水夫フランソアとラルサンも、モレロをこのように昂奮させた岩の上の黄金色まばゆき何物かを見つけてしまった。二人はむきだしに思っただけのことをさっきからしゃべっている。
「おいラルサン。おれたちはいよいよ百万長者《ひゃくまんちょうじゃ》になるんだぜ。あのぴかぴかしているのは、恐竜の卵なんだ。え、すばらしいじゃないか、恐竜は、あんなにぴかぴかと金色にひかる卵をうむんだぜ」
「フランソア、気をしっかり持ってくれ。たとい恐竜の卵を見つけたにしろ、どうしておれたちは百万長者になれるんだ」
「二人でな、この崖を下りて、あれを取るんだ。フランスまで持ってかえれば、一箇につき五万フランや十万フランで買い手がつくよ。いや、もっと高く売れるかもしれない」
「恐竜の卵が、そんなにいい値段で売れるかい、いくらぴかぴか金色に光っていても、卵だもの、とちゅうでくさりゃおしまいだ」
「あほうだよ、お前は。恐竜の卵とニワトリの卵といっしょになるものか。恐竜の卵は、すぐにはくさらないんだ。金色をしているのが何よりの証拠《しょうこ》じゃねえか」
「金色していると、永くくさらないのかい」
「はて、分り切ったことをいう。金色だから、熱もはじくし、中へバイキンも侵入できないし、おおそうだ、お前も見て知っているだろうが、ロンドンの博物館に恐竜の卵がたくさん陳列してあったじゃないか」
「ああ、あれなら見たよ。あれがどうかしたか」
「どうかしたかもないもんだ。あれは五百万年前の恐竜の卵なんだ。五百万年も、あのとおり、くさらないで、ちゃんと形をくずさないでいるじゃないか」
「そうかなあ」
「だからよ、ここから、フランスまではこぶのに、二週間あれば大丈夫だから、その間にくさることはありゃあしないよ。なにしろ五百万年もくさらない卵なんだからねえ」
「ふーン。分ったようでもあり、まだすこしのみこめないところもあるんだが……」
「お前はいつものみこみが悪いさ。頭がすごく悪いと来てやがるからね」
「しかしだなあ、フランソア。そうときまったら、早くあのぴかぴか卵をもらってこようじゃないか。お前、先へ行って、あそこへ泳いで卵を一箇か二箇ぐらい取って来るんだ。おれはその間に、細いロープで籠《かご》をあんでおくからね」
「それでどうする」
「おれがその籠を、ロープで崖下へ下ろさあ。お前は恐竜の卵を籠に入れて、
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