崖《がけ》の中段のところに、おきざりになってしまったんだそうだ。すぐみなさん、救援にいって下さい」
「それは大事件ですね。ロープだけでいいのでしょうか」
 張は、冷静にたずねた。
「ロープと食糧とあかりと……それから薬がいる」と玉太郎がいった。
「ロープはいちばん大事なものだ。たくさん持っていく必要がある。そして早くだ」
 マルタンは、何が大切だか、よく心えていた。
 張子馬はうなずいた。そして水夫のところへ行って、
「おい、フランソア。ラルサン。もう酒もりは、おしまいだ。こんどはお前たち、出来るだけインチのロープを肩にかついで、あの密林の奥へ急行するんだ。分ったか、フランソアにラルサン」
 と、二人の肩を、いくどもたたいた。
 二人とも、首をぐらぐらしているだけで、張のいっていることが半分しか分らない面持《おももち》であった。
「やい、やい、やい、やい……」
 モレロが仁王《におう》のように立ち上った。
「おれをのけものにして、何をどうしようというんだ」



   慾《よく》の皮《かわ》


 玉太郎もマルタンも、気が気ではなかったが、救援隊はそれから一時間のちになって、出発した。
 そのときには、二人の話によって、留守隊の連中もだいぶんよいがさめかけてた。恐竜は一頭かと思ったのに、この島には五頭も六頭も集っていると聞いては、よいもさめるはずであった。
 密林をくぐりぬけて、沼のところへ出たときには、モレロも二人の水夫たちも正気にもどっていた。
「おや、学者親子が、あんなところで遊んでいるじゃないか」
 モレロが、けわしい目をして、沼畔の榕樹《ようじゅ》の根かたを、つきさすようにゆびさした。ツルガ博士とネリは、さっきからずっとそこにいたのだ。
 博士はモレロの声を聞くと、けいべつの色をうかべた。ネリはモレロのおそろしいけんまくにおびえて、父親の胸にすがりついた。
 玉太郎は、モレロに対していかりを感じ、大いにいってやろうと前へとび出そうとしたところ、張がそれをおさえた。
「相手がわるい。そして今は、大切な時だ」
 と、張は玉太郎にささやくようにいった。
 そうだ。ラツールやケン、ダビットたちを救うまでは、仲間われしては不利なのだ。それだけ救援力が小さくなるおそれがある。玉太郎は、いきどおりをぐっと胸の奥へのみこんで、ただネリの方へ同情の視線をおくった。
「あいつ
前へ 次へ
全106ページ中64ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング