及《はきゅう》。高層建築地帯は昨夜のうちに全壊”
“不可視戦車の音を聞くの記――特派決死記者アーノルド手記”
“不可視戦車鎮圧に出動の第五十八戦車兵団全滅す。空軍の爆撃も無力。鎮圧の見込全然なし”
“怪犯人の容疑者たるルス嬢とベラント氏は昨夜|私刑《しけい》さる”
 鉛華女が、無線電話のかかって来たのを金博士に伝えたので、博士は新聞を机上《きじょう》へ放りだして、送話器に向った。
「はいはい。金博士じゃが。なに、あの件は何度|訊《き》いても変った返事は出来ぬよ。ルーズベルト君。一体共軛回転弾の発明は未完成でな、起動法は考え出したが、停止法はまだ考え出さんのじゃ。じゃから処置なしじゃ。……すぐ考え出せといっても、そうはいかん。今までに一年も考えたんだが、さっぱりよい停止方法がないのじゃ。当分|暴《あば》れたいだけ回転弾に暴れさせて置く外ないね。……それは駄目だよ。君んところには自慢の学者のアインシュタインがいるじゃないか。あの男に相談してみた方が早いよ。なに、彼も匙《さじ》をなげて自殺したと。莫迦《ばか》な奴……とにかくわしに責任はないよ。君の特使が申出たとおりにやったばかりじゃ。そんなに文句をいうのなら、これから君がわしのところへやって来たらいいじゃないか。電話には、後《あと》もう出ないよ。では失敬」
 金博士は、送受話器のスイッチをぴちんと切ると、髭をふるわせて呵々大笑《かかたいしょう》した。そして独言《ひとりごと》をいった。
「莫迦な奴らだ。目的地についたとき共軛回転弾が活動するようにと、時限装置を合わせるぞといってやったじゃないか。目的地といえば、戦場にきまっとる。あれをわざわざワシントンへ持って行く莫迦もないもんだ。アメリカ人というやつはどうしてああそそっかしいのだろうか」
 それからごくりと咽喉《のど》を鳴らし、
「それにしても、ルスとベラントという燻製料理の名人を二人も同時に喪《うしな》ったことは、世界の大損失じゃ。そうそう、まだどこかにバイソンの燻製がまだ少し残っていたっけ」
 金博士はにやりと笑って立上ると、冷蔵庫の中へ頭を突込《つっこ》んだ。



底本:「海野十三全集 第10巻 宇宙戦隊」三一書房
   1991(平成3)年5月31日第1版第1刷発行
初出:「新青年」
   1944(昭和19)年9月
入力:tatsuki
校正:門田裕志
200
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