絡船が停まったと出ていた。PB2Yらしい飛行艇も、房州の附近へ姿を現わし、高度五百メートルで船を攻撃したという。
 タラカン島へ米軍が、ラングーンヘ英軍が上陸している。
 しかしわが特攻隊、今度はつづいて猛攻をつづけ、既に沖縄周辺で撃沈破せる艦船の数は五百隻を超えた。この勢いでつづかせたいもの。
◯去る四日「疎開応急措置要綱」が発表された。老幼病人のほかは、都外へ疎開まかりならぬと決められた。これで腰が落ちつくことであろう。

 五月八日
◯第四十一回目の大詔《たいしょう》奉戴日《ほうたいび》。主婦之友の安居氏来宅中に警戒警報が出て、十一時半空襲警報となる。B29、十数機と、そのあとP51、六、七十機が来襲した。
 千葉、茨城方面を行動し、一部は帝都へ入ったというが、雲低く遂に機影を見ず。友軍機の八機編隊で警戒する姿が頼母《たのも》しく見えた。
◯外電によれば、ゲッペルス博士は官邸に於いて、夫人と子女四人と共に、毒物を服んで死んだとある。ヒットラー総統及びゲーリング元大ドイツ元帥の死体は見当たらず、ソ連軍躍起となって捜索中。ヒットラー総統は二十五日重傷を負い、一日ついに死去したという(三十日ともいう)。そして最後の輸血を拒み、ドイツ国民への愛を示したといわれる。
◯今日は「くろがね会」より稿料百円、主婦之友より百七十六円持って来てくれ、合計二百七十六円収入となる。昨四月は全収入合計五十二円八十銭だった。これだけでも入ってくれると、やっぱり作家生活はありがたいものだと思うようになる。四月の支出は千円とすこしであった。

 五月十九日
◯あまり日記を書かなかったのは、東京方面がずっと穏やかであったためだ。
 今日は九十機が立川方面へ来たが、雲が厚くて盲爆に終ったらしい。
 去る十四日(五日前)は名古屋へ四百機のB29が来襲して、同機多数来襲の記録を作った。

 南方基地からの敵大型機来襲記録
      (三月以降少数機来襲を含まず)
  (月日) (時刻) (機数) (目的地)
  3月4日  朝    一五〇  東京
    5日  未明    一〇  東京
        夜      七  関西
    10日  未明   一三〇  東京
    12日  未明   一三〇  名古屋
    13日  夜     九〇  大阪
    17日  未明    六〇  神戸
    19日  未明   百数十  名古屋
    25日  未明   一三〇  名古屋
    27日  朝    一五〇  九州北部
        夜   六、七十  同
    30日  夜     二〇  名古屋、伊勢湾
    31日  未明    三〇  瀬戸内海、北九州
        朝    一七〇  九州
  4月2日  未明    五〇  東京西北
    4日  未明    五〇  関東北部、京浜
        同     一〇  静岡
        同     三〇  京浜市街地
    12日  朝 相当数の数編隊 関東地区
    13日  夜    一七〇  東京市街
    15日  夜    二〇〇  京浜西南部
    17日  昼   七、八〇  鹿屋、太刀洗
    18日  朝     八〇  鹿児島、宮崎、熊本
        同     二〇  太刀洗
    21日  朝    一八〇  主力九州南部、一部九州北部
    22日  朝    一〇〇  宮崎、鹿児島
    24日  朝    一二〇  主力立川、一部清水、静岡
    26日  朝     六〇  宮崎、大分
        同     三〇  山口、福岡
        同     四〇  宮崎
    27日  朝    一五〇  鹿児島、宮崎
    28日  朝    一三〇  同
    29日  朝    一〇〇  同
    30日  朝     六〇  大分、宮崎、鹿児島
  5月3日  夜    十数機  阪神
    4日  朝   三十数機  四国、近畿
        同    十数機  関門地区
        同     五〇  大分、長崎
    5日  朝     三〇  大分、福岡
        同    一一二  四国、中国
        昼     三八  鹿児島
        夜   二十数機  瀬戸内海
    7日  朝     六〇  大分、鹿児島
    8日  朝  二十九目標  四国、九州
    10日  朝     三〇  松山、御前崎
        同    三五〇  大分、山口、広島
    11日  朝     六〇  阪神
        同     二五  
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