えて構内へ入った。南瓜畑《かぼちやばたけ》の中を腰のあたりまでかくしてかさかさと音をさせながら前進して行く。廃屋《はいおく》の一つを越え、さらにもう一つの廃屋を通りすぎる。だんだんさびしさが増し、神経がいやにとんがる。もう一つの廃工場のわきをぬける。いよいよ骸骨館が目の前にあった。うすい月光をあびて、アルコール漬けの臓器《ぞうき》のように灰色だ。
まん中のくぐり戸のところだけが、魔物《まもの》が口をあいているようにまっ黒だ。正太はあそこから中へ入らなければならないのだと思ったら、とたんにこわくなって引返そうかと思った。
だが、そんなことをしては、みんなからいつまでもけいべつされるばかりだから、そこで力をへそのあたりへうんと入れ、死んだつもりになってくぐり戸へ近づいた。「地獄の一丁目入口」と書いてある入口をついにくぐって骸骨館の中へ……。ぷうんとかびくさい。中は月光が乱反射《らんはんしゃ》で入って来ているところだけがうすぼんやりと明かるいが、他は洞窟《どうくつ》のようにまっ黒で、何も見えない。骸骨も見えないのだ。
正太の手はすぐ鉦《かね》の在所《ありか》を見つけた。骸骨のあらわれないうちに鉦をさっさと鳴らして、ここを出ていってしまおうと思った。
かんかん。かかーン。
鉦をうつ手がふるえて、うまく鳴らなかった。
「あっ!」
それがきっかけのように、正面にありありと二つの骸骨があらわれた。と、おどろおどろと青い鬼火が横あいからおどり出した。骸骨が手をのばした。正太の方を指さした。それから手をぐっと上へのばした。
「ううッ」
正太はがたがたふるえながら、夢中で上からさがっている縄をひいた。遠くでがらんがらんと気味のわるい音がひびくのが分った。
骸骨同士が手をつないでおどりだした。もうたくさんだ! 正太はうしろの壁へ、白墨で自分の名前をかきなぐると、脱兎《だっと》のようにくぐり戸の外へとび出した。
わっはっはっ。骸骨の笑い声が、逃げて行く正太君を追いかけた。
意外《いがい》な飛入《とびいり》
骸骨館の胆だめし大会は、大成功であった。子供たちは、こわいこわいとさわぎながらも大よろこびで、来る夜来る夜同じ遊びをくりかえした。
探検隊員の話では、鬼火が一番こわいという評判であった。骸骨が口をあーンとあくところがこわいというものもあったが、たいていの隊員はそんなところを見る勇気はなかったので、だまっているものが多かった。
ところが、骸骨係自身も、はじめはたいへんこわくて、もうよそうかと思ったと告白《こくはく》したので、みんなは笑った。しいんとしたあのさびしい骸骨館の中に、五人仲間がいるとはいえ、永い夜を送るのは気持のいいものではなかった。骸骨もすぐそばにいるし、鬼火もすぐそばで燃える。かりかりかりとシロホンが鳴れば、ほんとうに骸骨が鳴ったような気がする。そこへ向こうの草むらから、かんかーンと鉦《かね》の音がひびき、ううッと呻《うな》られると、すっかり身の毛がよだって、骸骨の方が「たすけてくれ」と悲鳴《ひめい》をあげたくなるというのだった。
台風《たいふう》が来たので、骸骨館探検は四日ほど中休みをした。
五日目は、夕方すぎに風もおさまり、雨もあがったので、時間は少しおそくなったが、久しぶりで骸骨館探検をすることになった。骸骨係の清君、一郎君、ブウちゃん、良ちゃん、鉄ちゃんの五人は、道具などをかかえていそいそと薄《うす》ぐらい骸骨館の中へ入っていった。
五人は舞台の上へあがって、したくにかかった。
「おや、ここに乾《かん》パンの食いかけが散らばっているよ」
ブウちゃんが妙な発見をした。
「乾パン。あ、ほんとうだ。誰が持って来たの」
「ぼくたちじゃないよ。誰かほかのものだよ。でも、へんだね。誰かこんなところへ来たんだろうか」
なんだか気味のわるいことだった。
だがそのことは、骸骨館探検がはじまったので、そのまま忘れられた。
二番目の探検隊員としてトシ子ちゃんが入って来て、鉦《かね》を鳴らしたときのことだったが、思いがけないことが館内でおこった。それはトシ子ちゃんと鬼火がおどる舞台とのちょうど中間《ちゅうかん》の草むらの中から、とつぜんぱっと明かるい光がさして天井を照らした。思いがけない光だった。そんな光を用意したおぼえはない。鬼火二つは舞台でおどっている。
「きゃっ」
とトシ子ちゃんが叫んで、その場に腰をぬかした。舞台の骸骨である清君と一郎君も、もうすこしで悲鳴をあげるところだった。すると中間の草むらのあやしい火がゆれ、草むらの中から何者とも知れず人間の形がすうっと浮かびあがった。
「きゃっ。お助け……」
叫んだのは、そのあやしい人影だった。とたんにあやしい光が草むらに落ち、うごかなくなった。そしてあやしい人物を下から照らしあげたのである。人相《にんそう》のよくない一人の男が、ぶるぶるとふるえ、両手を合わせて、しきりに拝《おが》んでいる。拝まれているのは清君と一郎君――いや、例の二体の骸骨だった。
「盗《と》りました、盗りました。わ、私にちがいありません。……はい、何もかも申し上げます。わ、私がかくしましたので……ここへ掘りました。館内防空壕の奥でございます。その奥をもう少し穴を掘りまして、そこへかくしておいたのでございます。……いえ、みんなそっくりしております。百号ダイヤもそのままです。おかえししますから、どうぞお助けを……。尊《とうと》い仏像から抜いた、もったいないダイヤを自分のものにしようと思った私は、罪ふかいやつでございます。しかしみんなおかえししますゆえ、どうぞ私を地……地獄へはやって下さるな。ああ、おすがりします。なむあみだぶ、なむあみだぶ、うへへへ……」
「いや、ゆるさぬぞ。きさまはこれから地獄へつれて行く……ここは地獄の一丁目じゃ。それを知らぬか。いひひひひ」
「やややッ、お助け……ううーン」
あやしい人影は、へたへたと草むらの中にくずれるように倒れ、気を失ってしまった。すべて骸骨係の演出がじょうずだったせいであり、ことに清君が、自分のこわいのをがまんして、「いや、ゆるさぬぞ、これから地獄へつれて行く……」などとへんな声で骸骨のせりふをいったのが、よくきいたのだ。
ブウちゃんがとびだしていって知らせたので、警官隊がやって来て、あやしい男をとらえた。この男こそ、かねて捜査中の五百万円のダイヤの入った箱を盗《と》った犯人であった。彼がその箱を土中から持ち出そうとしたとき、ちょうどうまく骸骨おどりにぶつかって、胆《きも》をつぶしてしまったのであった。自分がうす暗いことをしているから、骸骨にびっくりしたのだ。
このことがあって、廃工場の建物はすっかり取り払われた。そしてあとに広いグラウンドができた。少年たちは大よろこびで、そこでベースポールをはじめた。大犯人|捕縛《ほばく》と五百万円ダイヤ取りもどしのごほうびとしてもらった二組のベースボールの道具を使って、少年たちは大にこにこである。
底本:「海野十三全集 第12巻 超人間X号」三一書房
1990(平成2)年8月15日第1版第1刷発行
初出:「こども朝日」朝日新聞社
1946(昭和21)年10月1日号
入力:tatsuki
校正:原田頌子
2001年11月12日公開
2002年1月24日修正
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