文は簡単である。だが簡単な中に、ひじょうにすごい響きがある。山岸少年は、電文を復誦《ふくしょう》した。一字もまちがいはない。中尉が「よし」というのを聞いて、ただちに電鍵《でんけん》をたたきはじめる。さっき中尉から命令をうけると、すぐさま少年は送電機のスイッチを入れて、真空管に点火し、右手の指は電鍵の上に軽くおいて、いつでも打てるように用意をして待っていたのだ。電文は地上指揮所にとどいて、すぐさま同じ文句を地上からうちかえしてきた。
だが、どうしたものか、その無電は途中でぷつんと切れてしまった。そして山岸少年の耳にかけた受話器に、七色の笛のようなうなり音がはいってきた。
「機長、地上からの送信に、異状がおこりました」
と、山岸少年は、すばやくその異状を機長にとどけ出た。
山岸少年は、兄の返事を聞くことができなかった。そのとき事態はひじょうに迫っていたのである。いつどこからわき出したか、白い雲がかなり早い速さでするすると拡《ひろが》って、早くも二号艇を半分ばかり包んでしまったのだ。山岸中尉は、すべての注意力をそっちへそそいでいた。彼はその雲に包まれまいとして、あらゆる努力をこころみた
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