中尉はおどろいて、聞き直した。
「おや、あなたはまだそこまで考えておられなかったのですか。兵曹長機の高度計が零を指すようになったというのは、そこに一種の着陸場があることなのです」
「なるほど。では前進もしないし、舵《かじ》もきかないとはどういうのです」
「それはその魔の空間に突入したので、前進しなくなったのですよ。もちろん舵をひねっても、どうにもきかないはずです」
「そうかなあ」
 山岸中尉は、あまりに帆村の考えていることが突飛《とっぴ》なので、すぐにはついていけなかった。しばらく考えた上でないと、帆村と同じ考えにおいつけない。
「しかし、このことを他へ話して、誰が信じてくれるでしょうか。三万メートルの高空に着陸場があるといえば、誰だって笑いだすでしょう」
「笑いたい者には笑わしておきなさい。これは勇猛なる竜造寺兵曹長が、一命をかけて知らせてよこした重大報告なのです。その報告から考えだしたことを信じない者は、竜造寺兵曹長の忠誠を信じない大馬鹿者ですよ」
 帆村はついに顔を赤くそめて、きついことばをはいた。これには山岸中尉も、だまるより仕方がなかった。竜造寺兵曹長の忠誠については、誰より
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