山岸中尉は平気な顔で、計器盤にはめこんである、時計の秒針の動きを見つめている。
 そのときだった。前方に一大|閃光《せんこう》が起った。と、その爆風で、艇はうしろへ押しもどされた。
「出発――」
 たたきつけるような山岸中尉の声。がくんとハンドルは引かれ、スロット(飛行機の両翼にある墜落をふせぐ仕掛)は変えられた。気をうしなうほどのはげしい衝動。艇は矢のように飛びだした。一大閃光の中心部へ向かって……。

   奈落《ならく》へ

 自爆か、「魔の空間」から離脱か。
 不幸と幸運とが、紙一枚の差で背中あわせになっているのだ。
 彗星二号艇にのっている四人の勇士たちは、艇が全速力で一大閃光の中にとびこんだまではおぼえているが、それにつづいて起ったことを知っている者はひとりもなかった。
 それでいて、山岸中尉は、ちゃんと操縦桿を握りしめていた。帆村荘六は、気密室から空気が外へもれだしはしまいかと、計器をにらみつけていた。
 山岸少年は、いつでも命令一下、地上の本隊へ無電連絡ができるようにと、左手で無電装置の目盛板を、本隊の波長のところへぴったり固定し、右手の指で電鍵を軽くおさえていた。
 
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