前をおぼえようと努力しながら、
「ではココミミ君。君はどこで日本語を習ったのですか」
と、つっこんだ質問をうちこんだ。
「ああ、日本語。これをおぼえるのには苦労しました。わが国の研究所では、五百名の者が五年もかかって、ようやく日本語の教科書を作りました」
「それはおどろきましたね。五百名で五年かかったとは、ずいぶん大がかりになすったわけですね。それでいま『わが国』とおっしゃいましたが、失礼ながら君の国は何という国で、どこに本国があるのですか」
帆村荘六は、この重大な質問を発することについて、さすがに鼓動の高くなるのをおさえかねた。しかしそれを相手に知られまいとして、つとめて何気ない調子でたずねた。
「わが国名はミミといいます。どこに本国があって、どんな国かということは、いま話してもわからんでしょう。しかしわたくしたちも、あなたがたも、ともに銀河系の生物だということです。つまりお互いに親類同士なんです。ですからお互いの間の話は、原則としてよく合うはずなのです」
緑色の人の語るところは、帆村たちによくわかるところもあるが、何だかまとがはずれているようなところも感じられる。
「そういわないで、君たちの国のことについて、いま話をしてください。僕たちは一刻も早くそれを知りたいのですよ」
帆村は、けんめいにねばった。
「いや、いまはしません。後になれば、自然にわかるでしょう。そのときくわしく説明します」ココミミ氏は肩をそびやかし、説明をいますることを拒絶した。
「そうですか。では、僕の方からのべてみましょうか」
帆村は、大胆なことをいった。
「ほう、あなたがのべるのですか。よろしい。では、のべてください」
ココミミ氏は仲間の方へ手をあげて何か合図《あいず》をした。すると彼の仲間はおどろいた様子を示し、ざわざわと前へ出てきた。帆村はそれには無関心な様子を見せて、しずかに口を開いた。
「まず第一に申しますが、君たちはほんとうの姿をわれわれに見せていない。君たちは人体の形をした緑色の服を体の上に着ているのです。どうです、あたったでしょう」
帆村はとんでもないことをいい出した。しかしそれがあんがい相手に響いたらしく、いっせいに怪物たちの体が、がたがたふるえだした。そして帆村に向かっていまにもとびかかりそうな気配を示した。それを一生けんめいにとどめたのは例のココミミ君だった。
「どうぞ、その先を……」
彼は帆村に挨拶《あいさつ》をおくった。
「では、第二に、君たちはわれわれより智能が発達しており、地球の人間なんかそういう点では幼稚なものだと思っている。しかしこれは君たちの思いちがいだということを、いずれお悟りになることでしょう」
「ふむ、ふむ」
「第三に、君たちはさし迫った重大資源問題のため、はるばる地球へやって来たのです。君たちはこの問題をなるべく早く解決しないと、君たちの世界は間もなく滅びるかもしれないのだ。だから……」
帆村のことばは突然中断した。それは緑色の怪物三名が、やにわに帆村に組みついたからである。それは電光石火の如《ごと》くあまりにはやく、そばに立っていた山岸中尉が、帆村のためにふせぐひまもなかったほどだ。
機長ゆずらず
緑鬼《りょくき》どもに組みつかれた帆村は、まず山岸中尉の方へ目で合図するのに骨を折った。山岸中尉の顔は、緑鬼どもにたいする怒りに燃えていた。が、帆村は「待て、しずかに……」と、目で知らせているので、中尉は拳《こぶし》をぶるぶるふるわせながら、かろうじてその位置に立っていた。
「ココミミ君。君たちは、僕を殺すためにやって来たのか、それとも地球を調べるためにやって来たのか、どっちです」
帆村は叫んだ。緑鬼の隊長と見えるココミミ君は、帆村のつよい言葉に、ぎくりとしたようであった。帆村たち地球人類を殺すために、ここへ封じこめたのではないことは、よくわかっている。しかし彼の部下は怒りっぽいのだ。帆村に図星をさされたことを憤《いきどお》って、帆村を殺そうとしているのだ。
ココミミ君は、なにか意を決したもののごとく部下のそばへとんでいった。そのときふしぎな光景が見られた。ココミミ君の頭の上に出ている触角《しょっかく》が、にゅうっと一メートルばかり伸び、長い鞭《むち》のようになった。つぎにその鞭のようなものは、かりかりと奇妙な音を立てて、蛸《たこ》の手のように動いた。そして帆村に組みついて放さない緑鬼どもの角《つの》にまきついては、これをゆすぶった。
すると緑鬼は、急にがたがた体をふるわせて、どすんと尻餅《しりもち》をついた。こうしてココミミ君は、つぎつぎに緑鬼たちを倒してしまった。山岸少年は兄のうしろで、目をぱちくり。
救われた帆村は、べつにおどろいてもいず、はずれた飛行服の釦《ボタン》をか
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