艇内の正面の計器盤の上に、テレビジョンの受影幕が二個並んでいた。そしてどっちにも像がうつっていた。
右のものは、飛行艇の操縦席と、その後部がうつっている。操縦席には、望月大尉の明かるい顔があった。だからこれは、先行する彗星一号艇の内部がうつっているのだとわかる。
左のものは、広い部屋である。奥の方には机や、椅子が並んでおり、飛行服をつけた者がしきりに通っている。これは忍谷基地の地上指揮所の屋内である。
当番の電信兵の顔の右半分が、画面の端にあらわれているが、それが何だかおどけたように見える。
こうやってテレビジョンで連絡をとっていると、非常に便利である。地上の指揮所でも、一号艇や二号艇の内部が、壁間の受影幕にうつっているのだから、その像のうつっているかぎり、両艇は安全な飛行をつづけているなと安心していられるのである。
地上にいて、ほんとうは、たいへん気をもんでいる班長左倉少佐であったけれど、あまりたびたびテレビジョンに顔を出しては、望月大尉や、山岸中尉の注意力をそぐおそれがあると思って、必要なとき以外はなるべく顔を出さないようにしていた。
いつとはなしに時刻は過ぎ、いつか高度二万メートルを突破した。いよいよ危険な超高空に近づいて来た。
望月大尉は、山岸中尉から貰《もら》った地図をひろげて、竜造寺兵曹長の飛んだとおりの航路をなるべく飛ぶことにして、ここまでたどりついたのである。さて、この先には何者がいるのであろうか。鬼畜《きちく》か悪魔か、とにかくすこしも油断はならない。望月大尉は、二号艇へ「警戒せよ」と、テレビジョンの中から手先信号で、注意をあたえた。
大危険帯
窓外はいよいよ暗黒だ。
死の世界、永遠の夜の世界だ。
その中に、どんな恐しい悪魔がひそんでいるかわからないのである。
「ノクトビジョンを働かしているか」
望月大尉から山岸中尉への注意だ。
ノクトビジョンとは、暗黒の中で、物の形を見る装置だ。これは一種のテレビジョンで、一名暗視装置ともいう。これで見るには、相手に向けて赤外線をあびせてやる。物があればこの赤外線で照らしつけてくれる。肉眼では見えないが、赤外線をよく感ずるノクトビジョン装置で見れば、まるで映画をみるようにはっきり物の形がわかるのである。
「高度二万五千メートル……」
帆村荘六が大きな声で報告する。
「あと三
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