する。
「山岸さん。あなたは私の説に賛成せられるかどうかわかりませんが、この電文がまちがいないものとして、私が考えることは、竜造寺兵曹長の遭難した三万メートル近い高空において、この地上とほとんどかわりのない空間があるということです。これはまるでおかしなことばのようですがね」
 帆村はふたたび深い息をついた。
 山岸中尉は、帆村の突飛《とっぴ》な観察に、笑いだしもせず、大きくうなずいて、
「そういうことになりますね」
「山岸さん、私のことばが信じられますか」
「信じますとも。私が竜造寺兵曹長を信じているのと同じです」
 それを聞くと、帆村は始めてにんまりと笑って、
「信じてくださればいいが、三万メートルの高空に、地上と同じ空間があるなどという話は誰が聞いてもおかしいからね」
「もう考えられることはありませんか」
「そうですね。もう一つあります。竜造寺兵曹長は、そのふしぎな魔の空間にすべりこんで、脱出ができないのだと思います。しかし一命にはさしつかえはないと思う。なにしろそこは地上とあまり変らない気圧気温のところであり、そして着陸場までちゃんとあるのですからね」
「着陸場ですって」
 山岸中尉はおどろいて、聞き直した。
「おや、あなたはまだそこまで考えておられなかったのですか。兵曹長機の高度計が零を指すようになったというのは、そこに一種の着陸場があることなのです」
「なるほど。では前進もしないし、舵《かじ》もきかないとはどういうのです」
「それはその魔の空間に突入したので、前進しなくなったのですよ。もちろん舵をひねっても、どうにもきかないはずです」
「そうかなあ」
 山岸中尉は、あまりに帆村の考えていることが突飛《とっぴ》なので、すぐにはついていけなかった。しばらく考えた上でないと、帆村と同じ考えにおいつけない。
「しかし、このことを他へ話して、誰が信じてくれるでしょうか。三万メートルの高空に着陸場があるといえば、誰だって笑いだすでしょう」
「笑いたい者には笑わしておきなさい。これは勇猛なる竜造寺兵曹長が、一命をかけて知らせてよこした重大報告なのです。その報告から考えだしたことを信じない者は、竜造寺兵曹長の忠誠を信じない大馬鹿者ですよ」
 帆村はついに顔を赤くそめて、きついことばをはいた。これには山岸中尉も、だまるより仕方がなかった。竜造寺兵曹長の忠誠については、誰より
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