ほう。君は狐つきの説を信ずる組かね。はははは」
「いやそうじゃありません。第一、あの十二人のうちには海軍軍人が二人いるのですよ。列車から下りたばかりの海軍軍人は、青い怪物事件のあったことも知らないのですし、また話を聞いたとしても、あんなことで海軍軍人ともあろう者が、神経衰弱になろうとは思われません」
「それはそうだ」と室戸博士はいった。しかし熱のない返事であった。そこで帆村はまたいった。
「それに、青い怪物事件のあったのは、この町です。白根村は隣村です。この町の者が神経衰弱にならないのに、白根村の者が神経衰弱になるのは変ではありませんか」
「じゃ君は、あれをどう解釈しているのか」
 室戸博士の質問に、帆村は黙って下をむいた。やがて呻《うめ》くような帆村の声が聞えた。
「……あれこそわれわれ地球人類に対して、恐るべき第二の警報だと思うのです。われわれはすぐ立ち上らねばなりません」

   新しい手懸《てがか》り

「はははは。帆村君。君もすこし体をやすめてはどうかね。この間から、ずいぶん心身を疲らせているようだから、君まで神経衰弱になっては困るよ」
 特別刑事調査隊長の室戸博士は、白い髭《ひげ》をひっぱって、帆村荘六をじろりと見た。帆村が「白根村事件こそは、恐るべき怪物が、われわれにたいして発した第二の警報だ」という意味のことをいったので、そういう突拍子《とっぴょうし》もないことをいうのは、帆村荘六自身がもう神経衰弱になっているのではないかと思ったのだ。
 帆村は室戸博士の言葉を、悪い方へ解釈しなかった。彼はていねいに礼をのべた。それからポケットへ手を入れると、何か紙に包んだものを取出した。それを開けると、中には緑色がかったねじの頭のようなものが、三つ四つはいっていた。それを帆村は、博士たちの前に出して見せた。
「話は、例の緑色の怪物の方へとびますが、今日私は坑道でこんなものを拾ったのです。これまでにごらんになったことがありますか」
 帆村が差出すのを、博士は紙のまま受取って、机の上に置いた。調査隊の七人組が、そのまわりに集った。
「これは何処《どこ》で拾ったのかね」
 室戸博士は、鉛筆の尻で、そのねじの頭のようなものを突きまわす。
「今申したように、鉱山の坑道の下です。例の緑色の怪物が落ちこんだ穴の底を探しているうちに、ついに見つけたのです」
「何かね、これは……」
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