から安心するように。それから奇妙な死骸のある現場はなるべくそのままにして、手をふれないようにせよと、東京がわから注意があった。
このような手配がすんで、鉱山の人々も、土地の警察も、ほっとひと安心した。
そこで人々の気持も、前よりはいくぶんゆっくりして来た。そのとき、ある人がきゅうに大きな声を出したので、まわりにいた人たちは、また何ごとが起ったかとおどろいた。
「そうだ。本社の研究所へ来ている理学士の帆村荘六《ほむらそうろく》氏にこれを見せるのがいい。あの人なら僕たちよりずっと物知りだから、きっと、もっとはっきりしたことが、わかるかもしれない」
「ああ、そうか。帆村理学士という名探偵が、うちの会社へ来ていたね。あの人は前に科学探偵をやっていたというから、これはいいかもしれない。もっと早く気がつけば、こんなにあわてるのではなかったのに……」
といっているとき、人々の中へぬっとはいって来た長身の人物があった。眼鏡《めがね》をかけ、顔色のあさぐろい、そして大きい唇をもった人物であった。
「ああ、みなさん。あの奇妙な死骸が、どうしてこんな深い地底にあるかということが、はっきりわかりましたよ」
彼は太い音楽的な声で、そういった。
あつまっている人々は、声のするほうをふりむいた。
「おお、帆村さんだ。帆村さん、いつのまにここへ来られたのですか」
と、一同はおどろいて、帆村の顔をうちながめた。
さてこの帆村理学士は、奇妙な死骸の謎について、いったいどんな科学的解決をあたえたのであろうか。かれはもういつのまにやら、しらべを始めていたのだ。
奇抜《きばつ》な推理
「いやあ、どうも少し早すぎましたが、あんまりふしぎな話を聞いたものですからね……」
と理学士帆村荘六は、ちょっときまりが悪いか、あとの言葉を笑いにまぎらせた。
「一向《いっこう》かまいませんよ。誰でもいいから、こんな気味のわるい事件は早く解決してもらいたいと思いますよ。帆村君は、どういう風に考えているのですか」
そういったのは、この鉱山事務所の次長で、若月《わかつき》さんという技師だった。この人は、年齢は若いが、技術にも明かるく、そして、ものわかりもよく、鉱員たちの信望をあつめている人で、この鉱山にはなくてはならない人物だった。
「僕の考えですか……」
帆村と若月次長のまわりに、皆が集ってきた。こ
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