ミ族の一人を捕らえて解剖してみるしかない。

   血路《けつろ》は一つ

 山岸中尉は、帆村の説に半信半疑であったが、しかしさしあたり帆村の説をほんとうとして、万事やるよりほかないと思った。つまりこの「魔の空間」についても、またミミ族についても、彼よりも帆村荘六の方がはるかによく観察しているし、考えの深いことも尊敬に値した。
「なんとかして、ここを脱出したい、そして一刻も早く地上の本隊へ報告したい。どうすればここを脱出できるか」
 山岸中尉は、帆村の顔を見て、意見をのべるよううながした。
「それはむつかしい問題ですよ」
 帆村は正直に言った。はじめ「魔の空間」を征服しようとして突撃したのに、あべこべに「魔の空間」にこっちが征服されてしまったのだ。だからこれを破って、自由になることは、なまやさしいことではない。
「それはわかっている。しかしわれわれは一刻も早く、ここを脱出しなければならぬ」
 山岸中尉は、きっぱり言った。軍人という者は、自分にあたえられた任務をやりとげるために、いかなる困難にぶつかろうと、それを突破して進まねばならぬのだ。
「なにぶんにも、『魔の空間』の壁はひじょうに丈夫である上に、よく伸縮しますから、これを切り開くことはなかなかむつかしいと思います。この前は、わが噴射艇彗星号が全速でもって、『魔の空間』の壁にぶつかったが、ぐうっと押しかえされてしまいましたからね」
 帆村は、あのときのことを思い出して、脱出のむつかしいことをのべた。
「機関銃で撃ってもだめですか」
 さっきから黙って話を聞いていた山岸少年が、口をはさんだ。
「機関銃弾では、おそらくだめだろうね。しかし、君はいいことを言ったよ」
 と、帆村は山岸少年の方を見て、にっこりした。少年は目をぱちくり。
「機長、思いきって、こういうことをやってみてはどうですか。そのかわり失敗すれば、私たちは、たちどころに命を捨てなければなりません」
 そう言って、帆村が語りだした脱出方法というのは、艇《てい》に積んである爆弾を、全部一箇所にまとめ、これを爆発させるのである。するとうまくゆけば、「魔の空間」に穴が明《あ》くかもしれない。穴が明くものとして、その穴めがけて、艇は全速力で空間の外へとびだすのである。
 もし穴が明かなかったら、そのときは艇は、「魔の空間」のつよい壁に頭をぶっつけ、この前やったように
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