で、
「ははあ。君はおれの話を聞くのが迷惑らしい顔をしているね。よろしい。では、君が一度に椅子からとびあがる話をしてやろう。聞いているだろうね。この艇長のリーマン博士は、とてつもない素晴らしい器械を本艇に持ち込んでいるのだ。その器械を使えば、空間を生物が電波と同じ速さで輸送されるのだ。おいおい、そんな顔をして冷笑するものではない。これは真実なんだからね」
「そういう高級な科学のことは、魚戸にしてやってくれたまえ」
「魚戸? あんなのに話をしても面白くない。あれは艇長と一つ穴の貍《むじな》みたいなものだ。とにかくおれのいうことは本当だ。リーマン博士は地球出発以来、その実験をいくども繰返しているのだ。だからおれは、その器械に掛けてもらって、地球へ戻してもらおうと思ったのさ。どうだね、話の筋道はちゃんと立っているじゃないか」
僕はベラン氏の話がとても信じられなかった。黙っていた方がいいと思い、そうしていた。
「これだけいっても君は信じないね。よろしい。これから一緒にリーマン博士のところへ行こう。そしてその実験をおれたちに見せるよう要求しよう。さあ立ちたまえ」
ベラン氏は、僕の腕を掴んで引立てた。僕は仕方なしに立った。だがその日は退屈でもあったので、暇つぶしに、ベラン氏対リーマン博士の押問答を見物するも一興だと思い、ベラン氏の引立てるままに、倶楽部を出ていった。
氏は、艇内をあっちこっちと引張り廻し、階段を上ったり下ったり、僕の足を棒のようにさせたが、遂に或る一つの扉の前に連れていった。
「ちょっと先に中へ入って、様子を見てくる。君はここに静かにして待っていたまえ」
ベラン氏は、僕を扉の外に残して、彼自身はまるで空巣狙《あきすねら》いのように、そっと部屋の中に忍びこんだ。
それから四五分経った後、扉が静かに開いたら、ベラン氏が顔を真赤に染めて出てきた。
「静かにするんだ。今、あの素晴らしい実験が始まっている。隣りの部屋から、そっと見下ろすことができるのだ。幽霊のように足音を忍ばせてついてきたまえ」
僕は、そのときもまだ疑っていた。しかしベラン氏に連れられて、中へ闖入《ちんにゅう》し、氏の指さす戸棚を攀《よ》じ登って、その上から硝子窓越しに隣室の光景を俯瞰《ふかん》したとき、僕は初めてベラン氏の言の真実なることを知った。
その部屋は、すごく大きな部屋だった。恐ら
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