が宇宙墓地なんだ。宇宙をとんでいる隕石などが、地球と月との引力の平衡点に吸込まれて、あのように堆積《たいせき》するのだ。あのようになると、地球と月とに釘付けされたまま、もう自力では宇宙を飛ぶことはできなくなるのだ。引力の場が、あすこに渦巻《うずまき》をなして巻き込んでいるのだ」
「ふうん」
僕は言葉も出なかった。
「ところで本艇は今、ずるずると宇宙墓地のなかに引込まれつつある。これはリーマン艇長の予期しなかった出来事なのだ。艇長は、そういうことなしに安全に平衡圏を突破できるものと考えていたのだ。どこかに計算のまちがいがあったわけだ。しかし艇長は、こういう場合に処する用意を考えて置いた。今それが始まっている。見たまえ、下の方を。本艇から、いろいろな物を外へ放り出しているのが見えるだろう」
と、魚戸は指を下の方に指した。
僕は欄干《らんかん》につかまって、下方を覗きこんだ。曲面を持った凹《おう》レンズ式の展望窓は、本艇の尾部の方を残りなく見ることが出来るようになっていた。尾部には強力なる照明灯が点《つ》いていて、昼間のように明るい。見ていると、艇側《ていそく》から、ぽいぽいと函のようなものが放り出される。その函は、マッチ箱ぐらい小さいようにも見えるし、また見ようによっては蜜柑箱よりも、もっと大きいようにも思われる。
「あの函はなんだろう」
「あれは屍体の入った棺桶だ」
「えっ、棺桶。ずいぶん数があるようだが、どうしてあんなに……」
「地球を出発して以来、本艇内には死者が十九名できた。その棺桶だ」
「なぜ放り出すのか。宇宙墓地へ埋葬するためかね」
「それは偶然の出来事だ。本当の意味は、この際、本艇の持っている不要の物品をできるだけ多く外へ投げ出し、引力の場を攪乱《かくらん》して、本艇が平衡点に吸込まれるのを懸命に阻止することにある。分るかね」
「よく分らない」
「じゃあこう思えばいいのだ。舟が渦巻のなかに吸込まれそうになっている。そのとき舟から大きな丸太を渦巻の中心へ向って投げ込むのだ。すると渦巻はその丸太を嚥《の》みに懸《かか》るが、嚥んでいる間は渦巻の形が変る。ね、そうだろう。その機を外《はず》さず、舟は力漕して渦巻から遁《のが》れるのだ。それと同じように、いま本艇から出来るだけ沢山の物品を投げ出して、平衡点から遁れようとしているのだ。これで分ったろう」
「まあ
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