せれば、彼等こそ、わが民族の躍進を拒《こば》み、人類の幸福を見遁《みのが》してしまうところの軽蔑すべき凡庸政治家《ぼんようせいじか》どもです。彼等は、リーマン博士の活躍を阻止するため、あらゆる卑劣なる手段を弄《ろう》しています。彼等が特に力を入れているのは言論です。彼等は今やわが幹部政治家をほぼ薬籠中《やくろうちゅう》のものとすることに成功しそうです。そして今わが国民をも彼等の思う色彩に塗りかえ、あらゆる進取的精神を麻痺《まひ》させるためにその用意に掛っています。本艇の冒険旅行の計画者であるZ提督が、はっきり表面に顔を出さないのも、元々そういう事情を考慮してのことです。彼等は今のところZ提督とリーマン博士との関係に気がついていないからいいようなものの、もしそれが知れたなら、非難と中傷は数倍に激化し、われわれはこの緊急なる事業を中止しなければならなくなるでしょう」
「じゃあ、悲観的なことだらけですわね」
「まずそういっていいでしょう。しかし本艇がこんどの冒険旅行でもって、国民の目を瞠《みは》らせるようなお土産を持って帰ることができれば、話はまた自ら変ってきます」
「お土産とは、どんなお土産です」
「それはリーマン博士がさきにいわれたX宇宙族を探《さが》し当て、これを生きたままで地球へ連れ込むことに成功することです。これがうまくいけば、いかなる反対者といえども、最早黙ってしまうでしょう。X宇宙族を目前に見た国民はきっと沸きあがるでしょうから、反対者はもう下手な発言が出来なくなるのです」
「今ワグナーさんから伺《うかが》ったところによれば、本艇の成功と失敗との岐路は、X宇宙族を捕えるかどうかに懸《かか》っているのね。それはまるで大洋の底に沈んだ指環を探し出すくらいの困難な仕事ですわねえ。そうお思いにならない。ワグナーさん」
「僕にはそれを判断する力はありません。一体どうなるか、博士のうしろについていくだけです」
ワグナーは、あっさりと兜《かぶと》をぬいだ。
「ワグナーさんは、ああ仰有《おっしゃ》いますが、他のみなさんがたは、どんな風にお見込《みこ》みをなすっていらっしゃるの」
ミミは座長のような顔をして、一座を見わたした。だが、誰も直ぐに応える者がなかった。みんなワグナーと同じ考えなんだろう。
ただ、暫くしてフランケがいった。
「それはともかく、月世界へ着けば、もう
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