のねえ。貴方に相手をしていただこうかしら」
「いやいや、それは真平《まっぴら》です」
 ベラン氏が、僕の方をじろりと見たが、僕の目と会うと、周章《あわ》てて目を本の上に落とした。
 それがきっかけとなり、ミミは僕をつかまえて、輪投げを挑《いど》んでしかたがなかった。結局、すこし狭いけれど、倶楽部の部屋を斜めに使って、輪投げ場をこしらえた。
 最初はミミと僕だけがそれを楽しんだが、間もなくフランケやワグナーや、はては魚戸までも参加するようになった。
 それが機会となって、魚戸と僕は再び地球の上での交際をとり戻した。
 或る日、めずらしく宣伝長のイレネが、倶楽部に顔を出した。その手には、書翰綴《しょかんつづり》をもっていた。
「みなさん。出発以来、集って来たニュースの中から、本艇の行動に関係あるものを読みあげますから、聞いていただきます」
 そういってイレネは、部屋の真中に立ったが、足許に輪投げの輪が落ちていたのにつまずいて、もうすこしで足首をねじるところだった。
「誰がこんなものをここに持ち込んだのでしょう。こういうことはあたしの許可がいりますわ」
 イレネは不愉快な顔をした。
 ミミが何かいおうとして前へ出るのを、僕は後ろから引留《ひきと》めた。ニュース発表が中止されては困ると思ったからである。ミミは、僕の腕をぎゅっとつねると、イレネの方へつんと鼻を聳《そび》やかした。
「まず最初に、本艇の出発が、世界中に知れ亘《わた》ってしまったこと。この前、艇長のお話にもありましたが、本艇出発に際して、十数機の哨戒機にすれちがいましたが、その翌日のうちに、本艇出発のニュースは全世界に拡がりました。今や本艇は全世界の注視の的《まと》となっています。報道の源は、どうもユダヤ系のものと思われる節があります。その証拠として二三の新聞電報を読み上げてみましょう」
 といって、イレネは三つばかりの新聞電報を朗読した。
「次に、全世界において、本艇の行動につき、盛んなる論調が流れています。本艇の任務を壮《そう》なりとするものが十五パアセント、冷笑ないし否なりとするものが八十五パアセントです。後者について、その論旨を要約すれば、“リーマンとその後援者は気が変になったのだ。彼らは自ら宇宙塵《うちゅうじん》となるために出発したのだ”“あたら貴重なる資材と人材とを溝川《どぶがわ》の中に捨てるようなこ
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