様な光景こそ、一生忘れられないものとなった。
「ああっ――」
「もしもし、あなた。こうふんしては、いけません」
「はなしてください。ぼくにさわらないでください――。ぼくは夢を見ているのかしら」
「しずかに寝ていなさい。あなたは、からだをこわしているのだ。しかし心配ありません。われわれがじゅうぶんに手当していますから」
「夢だ。夢だ。それでなければ、ぼくの目がどうかしてしまったんだ」
川上が見たのは、きみょうな顔をした人間――いや、人間でないかも知れない――であった。頭がスイカのように大きくて、そしてひたいははげあがり、頭のてっぺんと両脇に、赤い毛がもじゃもじゃとはえていた。
ひたいの下には大きな目があった。青いリンゴほどもある大きな目だ。それがぐるぐると、きみわるく動く。
目から下は、顔が急にしなびたように小型になる。ラッキョウをさかさにしたというか、クリをさかさにしたというか、とにかく頭にくらべて小さい。口があるけれど赤んぼうの口のように小さい。鼻ときたら気をつけてよく見ないとわからないほど低くて、やせて小さい。耳は、よく見れば顔の両側についているが、それはすり切れたようで、耳たぶなんか見えない。ぺちゃんこになって顔の横についているだけだ。
――と、こう書いてくると、諸君は、おばけを思いだすかもしれないが、しかしほんとうはそんなものではない。これは、ずっと後にそう思ったことであるが、かれはどこかキューピーに似ているところがあり、子ども子どもしていた。ことに血色がよくて、さくら色で、すきとおるような肌をもっている、そしてつやのある海水着みたいなもので胴のあたりをつつみ、腕や足は、赤んぼうのそれのようにふとくみじかく、かわいく、色つやがよく、ぶよぶよしているように見えた。
だが、わがポコちゃんにとっては、この相手はやはり、きみがわるかった。いくらかわいくても美しくても、あたりまえの人間とちがっているので気持がよくなかった。その大きな目玉にみすえられると、ポコちゃんの背すじが氷のようにつめたくなり、ぶるぶるとふるえてくるのだった。いったいこの怪物――といっておこう。だってどう見ても人間じゃないんだから――その怪物は何者であろうか。
「気をしずめなさい。起きてはよくない」
その怪物は、ポコちゃんのからだをおさえつける。そのときであった。ポコちゃんは新しいおどろきにぶつかって、まっさおになった。それは、かれのからだをおさえつける怪物の腕が実に三本もあることを、このときになって発見したからである。
三本腕の怪物――人間ではない!
「き、きみは何者ですか。に、人間じゃありませんね」
ポコちゃんはもつれる舌をむりに動かしてたずねた。さて三本腕の怪物は何と答えるであろうか。
ふしぎな国
ポコちゃんは、まっさおな顔で、歯の根をがたがたいわせて、日ごろのちゃめ気《け》もどこへやら、おびえきっているが、あいての怪物は、さくら色のいい血色で、赤んぼうのように明かるい笑顔を見せて、しずかにポコちゃんのからだから手をはなした。
「ぼくのことを、きいているんですね」
怪物は、自分の顔を指さした。その指は、怪物の第三の手についている指だったから、ポコちゃんは、また息がとまりそうになった。右の手を第一、左の手を第二とするなら、のこりの一本が第三の手である。その手は、怪物の首の後からはえている腕の先についていた。その腕は左右の腕とちがい、わりあいに細く長かった。そしてゴム管《くだ》みたいにぐにゃぐにゃしていた。そのような腕の先に、第三の手がついていた。そして手の指は六本あって、どれもみな同じくらいの長さであった。てのひらはずっとせまく、指は長すぎると思うほど長かった。そういう指で、怪物は自分の顔を指さしたのである。
ポコちゃんは、返事をするにも声が出なかったから、そのかわりに大きくうなずいた。
「ぼくは、人間ですよ」
怪物がそういった。
「いや、きみは人間ではない。そんなふしぎな形をした人間が住んでいるという話を聞いたこともないし、もちろん写真や画で見たこともない」
ポコちゃんは勇気をふるって、異議《いぎ》を申したてた。
「くわしくいうと、ぼくはこの国の人間です」
と怪物はおちついていった。
「川上君。あなたはこの国の人間ではなくて、地球の人間である。そうでしょうが……」
この国の人間と、地球の人間だって? そして「川上」などと自分の名を知っているのはなぜだろう。ああ気持が悪い。たのみに思う千ちゃんは、いったいどこへいってしまったのか。
「もしもし、ぼくといっしょに宇宙艇に乗っていた者があったでしょう。千ちゃんというんですが、どこにいますか」
このだだっぴろい部屋に、ふわりとした白綿の寝床《ねどこ》――というよりも、
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