山ノ井があばれているのは。あれあれ、さかんに貴重な生命をうばっている。おそるべき殺害者《さつがいしゃ》だ」
「ほう、あそこに山ノ井君がいるんですか」
川上はおどろいて、林の中からあがる土煙りを見なおした。林の中から、土煙りのほかに空の方へ向かってとび出してくるものがある。それこそカロチ教授がいうとおり、貴重なる生命をうばわれた死体の一部分なのであろうか。ばらばらの手足がとび散っているのであろうか。気が変になった千ちゃんが、ジャンガラ星人とたたかって、手あたりしだいに相手のからだをひきちぎってなげとばしているのであろうか。川上はどきどきする胸をおさえて、林の上にとびだしてくるものに目をすえた。
(はて、べつに手足のようなものも見えないぞ。星人の首らしいものも見えない。なんだか葉っぱや、えだや、花がちぎれて、とんでいるようだが、殺された星人のからだはちっとも見えないじゃないか)
川上は、そう思って、ふしんの首をひねった。
「あれあれ、あのとおりだ。かわいそうに、ばらばらにひきさかれて、さかんにとばされる。ああ、おそろしい」
カロチ教授の大きな目から、涙がぼろぼろとおちる。
「もしもし、カロチ教授」
「おお、なんですか」
「あなたにはばらばらになってとぶ死骸が見えるのですか。ぼくには何も見えませんですよ」
「見えない? そんなことがあるものか。あれあれあれ、あのようにとばされている」
「あれは葉っぱじゃありませんか。花もとんでいますけれども……。あれはみんな植物じゃありませんか。ジャンガラ星人の死骸なんかてんで見えないです」
「き、き、きみはへんなことをいう。植物にもちゃんと生命がある。あれが暴行でないと、きみはいうのか」
カロチ教授のようすが、急にけわしくなった。川上には、まだ事情がよくのみこめない。
「もしもし、教授、気をしっかり持ってください。冷静になってください。あんなことをやっているのが山ノ井君だとしても、山ノ井君はべつに殺人のような悪いことをしているのではない。たかが植物をちょん切って、なげつけているんじゃありませんか。大したことではない」
すると教授は、顔から目玉を半分ばかりとび出させて、身をひいた。はげしいおどろきにうたれたらしい。
「おお、おそろしい。君も山ノ井におとらぬ悪人だ。植物の生命をとるのが平気だとみえる。そんなおそろしい心の人間にはつ
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