鳥の巣みたいな形の寝床に寝かされているのは自分ひとりであった。千ちゃんはどこへいったろう。どうしているのかしらん。
「わたくしは知らない」
 怪物はそう答えた。川上はいくども千ちゃんのことを説明して、そのゆくえをたずねたが、怪物は知らないとくりかえすばかりであった。
「わたくしは、きみの健康をりっぱなものにするために、きみについている植物学者のカロチという者だ。きみにつれがあったかどうか、知らない」
 カロチという名の植物学者だって――と、川上は目を見はっておどろいた。
「……で、ここはどこなんです。月世界でしょうか」
 月世界にこんな生物が住んでいるはずはないと思いながらも、とにかくそれをきいてみないではいられなかった。川上ポコちゃんは、相ついで起る怪奇とふしぎに自分の頭の力に自信がなくなった。
「ここは月世界ではありません。リラリラ星と名づける遊星《ゆうせい》の上です」
「リラリラ星ですって。月世界でも地球でもないんですね。火星でも金星でもないんですか」
「そんなものではない。ジャンガラ星です。ジャンガラ星とは、この国の言葉で、『宇宙の迷子星《まいごぼし》』という意味です。わかりますか」
「さっぱりわかりませんね。ジャンガラ星なんて遊星があることなんか聞いたこともありません。もちろん宇宙旅行の案内書にも、そんな名は出ていなかった。きみはでたらめをいってるんじゃないでしょうね」
「でたらめなもんですか。そのしょうこに、きみは、げんにこうしてわがジャンガラ星の上で呼吸をし、ジャンガラ星の人間で.あるわたくしと話をしている。これでわかるでしょう」
「いや、なかなかわかりません」
「じゃあ、きみにわからせるためには、どういうことをしたらいいか……」
「それはこうすればいい。早くぼくを外へつれ出して、ジャンガラ星を案内してください。さあ、すぐ出かけましょう」
「だめです。出かける前に、きみは歩き方から練習しなければならない。でないと大けがをするにきまっている……。出かけるのは、もっともっと先のことです。とうぶん、そこに寝ているがいいです」
 そういうと、植物学者カロチは立ち上って、すたすたと部屋を出ていった。第三の手で、はげ頭のてっぺんをごしごしかきながら……。


   くしゃみ事件


「これが夢でないとすると、たいへんなことになったもんだ」
 川上のポコちゃんは、白
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