」
そこでポコちゃんは、千ちゃんに手つだってもらって、空気服を着、頭には大きな球型《きゅうけい》の空気帽をかぶり、すっかり身じたくをしてから、とうとう艇の外に出た。
艇から外へ出る出入口は、このカモシカ号の胴《どう》のまん中あたり、それは小さい気密室が三つ、つづいていて、三つのドアがあった。いちいち、その小さい室へはいってはドアをしめ、だんだん外へ出ていくのであった。こうしないと、ドアをあけたとたんに、艇内の空気は、いっぺんに外へすいだされ、艇内は空気がなくなってしまう。それでは中にいる者は死んでしまうのだ。
大事件
ポコちゃんは、艇の外へ出たものの、しばらくは艇につかまって、手をはなそうとはしなかった。ここは重力平衡圏だとはいうものの、手をはなしたが最後、自分のからだは、すうっと下へ落ちていくのではないかと、やっぱり心配だったからである。
「おい、ポコちゃん、なにを考えているんだ」
艇内からは、千ちゃんが無線電話でポコちゃんに話しかけた。無線電話器は、空気服のせなかに取りつけてあり、送話器と受話器の線は、服の内がわを通って、ポコちゃんの口と耳のところへいっている。
「いま、手をはなすところだ」
ポコちゃんの声はすこしふるえている。
カモシカ号の電燈が外を照らしているので、その光りのあたるところだけは、はっきり見える。
「千ちゃん、いよいよぼくは手をはなすよ。もし、ぼくのからだが、ついらくをはじめたら、すぐ助けてくれよね」
日ごろのポコちゃんに似あわず、心ぼそいことをいう。さすがのポコちゃんも、自分の冒険がすぎたことを、いま後悔《こうかい》しているらしい。
「早くやれよ」
千ちゃんは、艇内から、えんりょなくさいそく[#「さいそく」に傍点]をする。
「では、はなすよ」
ポコちゃんは、もうあきらめて、手をはなした。と、かれのからだは、カモシカ号の胴の上をつるつるとすべって、うしろの方へ……。
それから翼《よく》と翼とのあいだをするりとすりぬけたと思ったとたんに、かれのからだは艇をはなれた。と、かれのからだは平均をうしなって、くるくると風車のようにまわり出した。
「うわっ、わわわわっ!」
でんぐりかえること何十回か何百回か、わからない。目がくるくるまわる。頭のしんが、つうんと痛くなる。はき気がする。
そんな大苦しみのすえに、ようやくか
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