いへんやっかいであるが、そこがまた、たいへんおもしろいところでもある。
宇宙の墓場《はかば》だ
「おいポコちゃん。いよいよきたぞ、宇宙の墓場へ。このへんは、もう宇宙の墓場なんだぜ」
山ノ井は、となりの席でもう三時間もぐうぐうねむりつづけている川上を起した。
「うううーん。ああ、ねむいねむい。なんだ、もう食事の時間か」
「あきれた坊やだね。宇宙の墓場だよ」
「シチュウが袴《はかま》をはいたって。そいつはたべられないや、口の中でごわごわして……。ああ、ああっ。腹がへった」
ポコちゃんは目がさめると、おなかがすいたとさわぎだすくせがあった。山ノ井の千ちゃんは、あきれてしまって、とちゅうからもうだまっていることにして、しきりに暗視《あんし》テレビジョンのちょうしをかえながら艇外へするどい注意力をあつめている。
ああ、宇宙の墓場。
そこは重力平衡圏《じゅうりょくへいこうけん》というのが、ほんとうであろう。つまり地球からの引力と月からの引力がちょうどつりあっていて、引力がまったくないように感ぜられる場所なのだ。そこは、もちろん地球と月の中間にある。そこから月までの距離を一とすると、そこから地球までの距離は九ぐらいになる。だから月にたいへん近い。
この重力平衡圏は地球と月との間に、かべのように立っているのだ。しかしそれは平《たいら》なかべではなく、まがっている。
そこへ流れこんだ物は、宙ぶらりんになってしまって、地球の方へも落ちなければ月の方へも落ちない。そしていつまでも宙ぶらりんの状態がつづく。だから宇宙の墓場といわれる。
それに、大昔からこの重力平衡圏へ流れこんで、宙ぶらりんになっている物が少なくないのである。だからいよいよそれは宇宙の墓場らしく見えてくるのであった。山ノ井は、どんなものが宙ぶらりんになっているかと、目をさらのようにしてテレビの幕面《まくめん》をのぞいている。
すると、一つだけ、見えた。
「なんだろう、あそこにある細長いものは……。いん石にしては長すぎるし、それにいやに形がいいし、へんだなあ」
山ノ井がひとりごとをいったのを、川上のポコちゃんが聞きつけて、なんだ、なんだとそばへよってきた。
「へえっ、とうとう宇宙の墓場へやってきたのかい。それはたいへんだ」
ポコちゃんは、小さい目を鉛筆のおしりのように丸くしておどろいた。
「え
前へ
次へ
全46ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング