だという。
いくら太陽がえらくても、ちり[#「ちり」に傍点]や水蒸気がなければ、空がまひるの明るさにかがやかないのだ。そうしてみると、ちり[#「ちり」に傍点]とか水蒸気は、大した魔術師だわい――とポコちゃんは感心してしまった。
「だけれど、なんというあわれなお日さまだろう」
と、ポコちゃんは、窓の外に仰ぐ太陽にたいへん同情をした。
もうひとつのかわった風景は、どんどん後へはなれていくわが地球が、とうとうすっかり球《たま》の形に見えるようになったことである。
その地球の大きさを、どういいあらわしたらいいだろうか。大きな丸いテントを張って、それをすぐそばに建っているとう[#「とう」に傍点]の窓から身をのりだして見たようだとでもいうか、家の二階までがすっぽりはいる大きな雪の玉をこしらえて、そのそばにしゃがんで見上げたようだというか、とにかく大きな球の形に見え、それが太陽の光をうけて明かるくかがやいて見えるのだった。
海と陸との区別がつくことはつくが、それはあまりはっきりしない。陸の色は黄色っぽい緑であるし、海はうす青であった。しかしよく見ているとあそこが太平洋だな、こっちがアジアで、あっちがアメリカだなとわかった。この大きな球である地球が、きれぎれの雲につつまれているところは、なんだかおそろしい気がしたし、またその大きい地球が、ささえるものもないのに落ちもしないのが、ふしぎであり、あぶなっかしく思われて、山ノ井も、川上も、ながく地球を見ていることができなかった。
二人が目ざす月の方は、こうしてかなり近づいたのにもかかわらず、海から出た満月ぐらいの大きさになっただけだった。月の世界につくには、まだなかなかである。
こうして、しんぼうくらべのような日が、いく日もつづいた。
地球からのラジオが、いちばんたのしいものであったが、それもだんだんと音がよわくなってきたし、局の数もへった。こっちのカモシカ号から地球へ送る無線通信もだんだんうまくいかなくなって、やがてモールス符号のほかは、地球へとどかなくなってしまった。それでも地球からは、かすかながらも無線電話がカモシカ号のアンテナにとどいた。しかしそれは、とくに大切な連絡のために使われるだけであって、一日のうちに五分ずつ、たった三回にすぎなかった。
しかしその五分間の無線電話によって、カモシカ号のことが、内地でたいへ
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