知らせるわけにゆかなかったが、まあ悪く思うな」
「なるほど」
 帆村はうなずいた。もっともな話である。帆村荘六は通信社から特にたのんだ便乗者《びんじょうしゃ》にすぎない。隊の幹部ではない。
「それで隊長は当日、ガスコ氏をこの艇内へ案内せられたのですか」
「ちょっとだけはね。氏はほんのわずかの間艇内を見たが、まもなくおりてゆかれた。わたしは氏を迎えたとき、氏が『挨拶《あいさつ》はよしましょう。ていちょうな取扱いもしないでください。近所のものずき男がやってきているくらいの扱い方でけっこうです。わしはすぐ失敬します』といった。氏はきょくりょく知られたくないようすで、スカーフを取ろうともしなかった」
「そこなんだが……」と帆村はまえへ乗りだしてきて、「どなたか、その時刻からのち、ガスコ邸《てい》へ電話をかけて、ガスコ氏と話をされたことがありましたか」
「さあ、どうかなあ」
 帆村のだしぬけな質問に、隊長テッド博士はすこし面くらいながら、幹部たちの顔を見まわした。
「わたしはその後一度もガスコ氏に連絡しないのだが、諸君はどうか」
 その答えは、あのとき以後誰もガスコ氏と話したり連絡した者がないと
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