して、はりきっていた。
 帆村の姿が見えると、三根夫は手をくるくると動かして、なにか合図のようなものを帆村に送った。
「六号艇ハ絶望ラシイ」
 手先信号で、三根夫は重要なることを帆村に知らせた。
「どうしたの、第六号は……」
 帆村は三根夫のそばへかけよると、小さい声でたずねた。
「いまから五分まえに、後部倉庫からとつぜん火をふきだしたそうです。原因は不明。消火につとめたが、次々に爆発が起こって――燃料や火薬に火がうつって誘爆《ゆうばく》が起こって、手がつけられないそうです。テッド隊長は、『絶望だ』とことばをもらしました」
「わかった。ここはぼくがいるから、ミネ君は部屋へいそいでもどり、ガゼットのカークハム君を呼びだして、いまの話をしたまえ。そしてね。ぼくもあとから連絡するといっておいてね。その連絡がすんだら、きみはもう一度ここへやってくるんだよ」
「はい。そのとおりやります」
 三根夫は、いそぎ足で操縦室をでていった。
 あとには帆村が壁ぎわに立ち、この部屋でいまむちゅうになって働いている人々のじゃまをしないようにつとめながら、悲しむべき第六号艇の椿事《ちんじ》のなりゆきを見まもった。
 いまこの操縦室には、本隊の首脳部がのこらず集まっていた。もちろん隊長テッド博士が中心になって、なんとかして第六号艇をすくう道はないかと、一生けんめいにやっている。
 その悲劇の第六号艇の姿は、操縦室の前方側面の壁に、大きくうつしだされている。それは一メートル四方のテレビジョン映写幕いっぱいにうつしだされているのだった。
 艇の姿がななめになってうつっている。本艇よりはすこしおくれている。そして艇のうしろから三分の一の部分のところから七、八箇所も、えんえんと火を吹きだしている。その焔にまじって、まぶしいほどの火の塊が、ぼんぼんとはねながらとんでいる。それらの焔と煙とは、むざんな火の尾を長くうしろにひいている。それは艇の全長の五倍にものびていて、見ているだけで脳貧血が起こりそうである。
 いったいどうしてこんな大椿事が起こったのであろうか。
 第六号艇の艇長ゲーナー少佐は、原因不明だと無電でテッド隊長に報告している。この救援隊の十台のロケット艇がエフ十四号飛行場を出発するとき、地上では不吉《ふきつ》な流言《りゅうげん》がおこなわれたが、それがとうとうほんものになったようでもある。
 隊長テッド博士以下の救援隊の首脳部の心の痛みは、災害をちょくせつに身にうけてその生命もいまや風前の灯火どうようの第六号艇の乗組員三十名よりも、ずっとふかく大きかった。
 テッド博士たちとゲーナー少佐とは、あれから無線電話でたえずことばをかわしていたのだったが、テッド博士はついに第六号艇の火災と爆発とが、とても人力《じんりょく》によってふせぎ切れるものでないことを見てとると、艇員たち全部の退避をすすめた。
 艇長ゲーナー少佐は、沈着な責任感の強い軍人だったので、隊長テッド博士のこのすすめには、すぐにはしたがわなかった。そしてなおも部下をはげまして消火作業をつづけさせたのであった。
 だが、それから五分ののちに致命的《ちめいてき》な大爆発が起こり、そのために艇の後部はふきとばされてしまった。そのすごい光景は、司令艇の操縦室の映写幕にもはっきりとうつって、帆村も見た。見たは見たが、あまりに悲壮《ひそう》であってとうてい見つづけることはできなくて、おもわず両手で目をおおったほどだ。帆村だけでなく、他の人びとの多くも目をおおった。
 隊長テッド博士だけは、またたきもせず、だいたんにこの地獄絵巻のような第六号艇の爆発をじっと見つめていた。そして艇長ゲーナー少佐にたいし、ふたたび総員退避をすすめた。
「ゲーナー艇長。この次の爆発が起こると、原子力的な大爆発となるだろう。そうすれば、第六号艇だけでなく、のこりのわれわれ九台の宇宙艇もまたぜんぶ破壊するおそれがある。だから一刻もはやく総員を艇から退避させたまえ。きみたち救援のことは引き受けた」
 隊長の忠言は、ゲーナー少佐をついに動かした。
「隊長。わかりました。総員退避を命令します。部下を救ってください。お願いします」
 少佐はそこではじめて最後の命令をだした。
 二十九名の乗組員は、部署をはなれて、空間漂流器《くうかんひょうりゅうき》をすばやく身体にとりつけると、艇外へ飛びだした。黒暗澹《こくあんたん》たる死のような空間へ……。


   爆発原因


 帆村は、手に汗をにぎって、映写幕のうえに見入っていた。
 かれは、しばしばうなった。こうしてじっとして惨劇《さんげき》を見ているにたえなかった。じぶんもすぐ艇外へとびだして、あの気のどくな第六号艇の漂流者たちのなかに身を投じ、ともに苦しみともにはげましあって、この危機の脱出に協力
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