り、小熊で豚で人間のようなガン人であったが、ガンマ和尚は、額にしわがより、眉の間にもたてじわが三本も深くみぞをきざんでおり、そして垂れた鼻の両わきから、長い白ひげがさがっていた。このガンマ和尚こそ、怪星ガンの最高指揮者であった。
 ガンマ和尚は『ふたりの勇士』を送り届けにきたという。ふたりの勇士とは、
「おや。ロナルドとスミスじゃないか。大けがをしているね。いったいどうしたんだ」
「おい、しっかりしろ、ロナルド。どうしたんだスミス」隊員たちは、びっくりして担架のまわりに寄った。が、そこで、目に見えないぐにゃりとした壁みたいなものにつきあたり「ひゃッ」と悲鳴をあげて、うしろへとびのいた。それはかれらが、目に見えないガン人たちの身体につきあたったからである。そのガン人たちは、担架をかついでいたのだ。


   大宇宙の秘密


 ガンマ和尚《おしょう》とテッド隊長の会見は、劇的な光景をていして、隊員たちをいやがうえにこうふんさせた。
 司令室の卓《テーブル》をなかに、両雄は、しばらくぶりに会ったあいさつをしたが、
「どうしたというのですか、わたしのぶたりの隊員たちの大けがは……」
 と、テッド隊長は、悲しげな顔になって、ガンマ和尚にたずねた。
「わしが、両君に力を貸してくださいと、むりにお願いしたのです。相手はガスコと称しているすこぶる悪い奴で、やはり地球人類なんですわい」
「ガスコ?」ガスコの名がでてきたので、隊長のそばに立っている帆村荘六も三根夫も、はっと顔をかたくした。三根夫はあのにくむべき悪党に、天蓋《てんがい》のところで出会って、あとでふり切って逃げたが、あのあと、まだ何か悪いことをしていたのであろうか。
「そうです。ガスコです。あいつは、アドロ彗星のまわし者ですって。あいつは、立入り禁止の天蓋の所へでて、もう十何日間も、アドロ彗星と連絡していたのです。アドロ彗星って、ごぞんじでしょうな、テッド博士」
「よく知りませんが、今、我々のほうへ向かってくる宇宙の賊《ぞく》のことですか」
「宇宙の賊! ふうん、それはいい名称だ。あの悪魔星にはうってうけの名称だ。宇宙の賊ですよ、まったく」
「で、ロナルドとスミスは、どうしたのですか」
「さあ、そのことです。われわれが、ガスコを取りおさえようとしたが、なかなか手におえない。こまっていたところへ、両君が通りかかったものだから、両君にちからを貸してくれるようたのんだのです。地球人類をおさえるのには、やはり地球人類にたのむのが一等いいのです。そのけっかわしたちの希望どおり、ガスコは、取りおさえられました。もうあいつは、アドロ彗星へ連絡することはできなくなりました。だが、お気の毒に両君とも、だいぶけがをしました。われわれは地球人類の傷の手当をするのにじゅうぶんの自信はないのです。ゆえに、両君をいそいでお連れしたわけです。はやく手当をしてあげてください。それから、われわれは両勇士およびあなたがたに、大きな感謝をささげるものです」ガンマ和尚は、ロナルドとスミスの働きについてそう語った。
 両人は、すでに別室で医局員の手で手当がくわえられつつある。ガスコが死にものぐるいで刃物をふりまわしたので、両人は身体にたくさんの斬《き》り傷《きず》をうけていた。しかしさいわいに急所ははずれている。両人は、ガンマ和尚に協力することよりも、すこしもはやくサミユル博士のところへいって、連絡任務をはたしたかったのだ。しかし、ガンマ和尚たちの命令をきかないわけにいかなかった。そこでガスコと決闘したのである。こんな傷を負い、連絡にいけなくなって申しわけないと、両人は、手当をうけながらわびた。ガンマ和尚は、二勇士についての報告と感謝をすませたあとで、あらたまった態度でテッド隊長に相談をもちかけた。
「わがガンマ星が非常なる危機に立っていることは、もうごぞんじのとおりです」和尚はガンマ星という名称を使った。
「たぶんこんどはアドロ彗星の攻撃から抜けだすことはできないでしょう。しかしわれわれは、最後まで宇宙の賊とたたかう決心です。アドロ彗星には正義感というものがすこしもないのです。強大にはちがいないが、ゆるしておけない巨人です」
「アドロ彗星というのは、天然の彗星なんですか。それともこの怪星ガン――いや、失礼しました、ガンマ星のごとく、人工的に建造された星体《せいたい》なのですか」
「やはり人工的の星です。いまこの近くの宇宙において、人工的自動星がすくなくとも四、五万はとんでいるようです。アドロ彗星は、その中の一番巨大なやつで、銀河の暗黒星雲《あんこくせいうん》あたりからでてきたすごいやつです」
「ははあ、なるほど」テッド隊長は思わずため息をつく。
「そこでテッド博士。おり入ってお願いしたいことがあります。それはあなたがた地
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