とって極楽世界のように見えるが、よろこんでばかりもいられないんだな。先生はなにかもっと重大なことを知っていられて、わたしに話したいと思っているんだが、それが話せないらしい。よろしいそれではわれわれの手で、怪星ガンの秘密を一日もはやく探しあててやりましょう。先生、もうしばらくしんぼうしてください)
 テッド博士は老師にたいして、心の中でそういった。
 いよいよ別れの握手をしたあとで、博士はもう一言いった。
「先生のひきいていられる『宇宙の女王《クィーン》』号をぜひ見せていただきたいものですね。あすあたりいかがでしょう」
「ざんねんながら『宇宙の女王』号をきみに見せるわけにいかない。あれはもう、この国へ寄附してしまったのだ」
「寄附ですって。それはおしいことをしましたね。それでは先生や隊員たちは、地球へもどるにも乗り物がないではありませんか」
「そうだ。わしはふたたび地球へかえるつもりはない」
「えッ。それはまたどうして……」
「わしは、この国でずっとながく暮らすつもりだ。きみたちもそのつもりでいたほうがいいと思うね」
「いや、わたしどもは、どうしても地球へもどります。それに、このようなふしぎな怪星ガンの国を見た上からは、一日も早く地球へもどって、全世界の人々に報告をしてやるのです。そしてそれは同時に警告でもあります。地球の人々は、宇宙で人間がもっともすぐれた生物だと思って慢心していますからね。それにたいして一日でも一時間でもはやく、怪星ガンの存在することを警告してやるひつようがあります」
「待ちたまえ。きみの考えはむりではない、しかしきみはまだこのガン人の国について、ほんのすこし知っているだけだ。そんなことでは、ガン人の国の真相を地球へ伝えることはできないではないか」
「それはそうですが……」
「まちがったことを知らせたりすると、誤解が起こって、かえって大事件をひきおこすことがある。宇宙戦争なんかは、どんなことがあっても起こしてはならないからねえ」
 サミユル先生は、熱心を面《おもて》にあらわしていった。
「でも、このような警告は一分でも一秒でもはやくなくてはなりません。地球人類が、もし不意をつかれるようなことがあっては、負けですからね」
「ほう。きみはもう、怪星ガンと地球とのあいだに宇宙戦争が起こるものと考えているのかね」
「はい。考えています。たしかにその危険があります。困ったことですが、どうにもなりません。やくそくされた運命というのでしょう」
「いや、わしはそうは思わない。きみはもっと考えなおすべきだ。そしてガン人というものをもっと深く理解しなくてはならぬ」
「もしもし、そんな話は、もうそのくらいにして、やめたがいいでしょう。テッド博士たち、もうおかえりなさい」
 とつぜん頭の上で、われ鐘のような声がした。
「あッ。きみは誰?」
「ガンマ和尚《おしょう》ですわい」
「おお、ガンマ和尚」テッド博士は、しまったと思った。しかし声だけのガンマ和尚は、別に怒っているようにも思われず、おなじ調子の声で、
「くよくよしないで、街でたのしいものを見つけることですよ。つまらない話はしないのがいい。あすは、あなたたち全員を、わたしたちが招待して、たのしい歓迎会をひらきます。そのことを帰ったらみなさんに知らせてください」
「わたしたちのために、そんな会を開いてくださるのですか」
「あなたがたがその会にでれば、わたしたちの気持ももっとはっきりわかってくれるでしょう。さあさあ、にこにこ笑って、ここをおひきあげなさい」


   大食堂の異風景


 その翌日の大歓迎会は、まったくすばらしいものであった。また珍妙なものでもあった。
 テッド隊長以下三百名にちかい隊員全部が、この町の大宴会場キング・オブ・スターズに招待せられたのである。その招待の正式のあいさつは、いつどこから忍びこんできたのかわからないが、姿は見えぬながら声だけのガンマ和尚《おしょう》から、九台の宇宙艇内へ手おちなく伝えられた。
「へえーッ、おれたちを招待するというぜ。なにをたべさせるのかな。気持がわるいね」
「なあに、その心配はないさ。怪星ガンは大きな世帯らしいから、まさかわれわれの口にあわない彗星料理や星雲ビールなんかをだすことはないと思う」
「なんだい、その彗星料理だとか星雲ビールというのは。いったいどんなものか」
「さあ。どんなものかおれもしらないが、おまえは、そのへんてこなものがでるか心配していると思って、ちょっといってみたのだ」
「ははは。なにをでたら目をいうか」
 一同がなによりも喜んだのは、艇をでて、外を足で歩けるということだった。まったくながい間せまい艇内にこもってばかりいて、あきもあいたし、足がつかえてしまった感じだ。とてろがいま招待によって艇をでて、外をてくてく
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