た。それはコンベヤー式になっていて、上ってくるものと下るものとが、左右に並んでいっしょに動いている。扉もない。そしてメリーゴーラウンドの箱車みたいになっている。ちょうどまえにきたときに、その箱車へとびこめばいいのだ。一つの箱に十人ぐらいは乗れる。
テッド博士とケネデー軍曹が先頭を切って、とびのった。ポオ助教授と帆村と三根夫は、その次の箱車に乗った。エレベーターはずんずん下へおりていく。外は窓がないので、どんな景色になっているのか見えない。
この道中はかなりながく、十二、三分間もかかった。そしてついにホームのようなところへ箱車ははいった。博士の合図で、みんなホームへとび移った。
「たしかに、これはしっかりした地面のようだがね」
博士はそういって足許《あしもと》を見ながら足ぶみをした。ホームのむこうに、大きなアーチが見え、そのアーチのむこうには明かるい街並が見えた。みんなはそのほうへ歩いていった。たしかに見事な街路だった。きれいに並んだ商店街。街路樹《がいろじゅ》もゆらいでいる。なんだか狐《きつね》に化《ば》かされたようだ。
「よう、テッド君じゃないか」隊長の肩へ手をかけた者がある。
老探検家
わが名を呼ばれ、テッド隊長はびっくりしてうしろをふり向いた。
「あッ、あなたはサミユル先生」
隊長がおどろいたのもむりではない。かれの肩をたたいた者は余人《よじん》ならず、『宇宙の女王《クィーン》』号にのってでかけた探検隊長のサミユル博士だった。その『宇宙の女王』号が、悲壮《ひそう》なる無電をとちゅうまで打って、消息をたった。それでテッド隊が、『宇宙の女王』号のゆくえを探すために地球をあとにして、困難なる大宇宙捜査《だいうちゅうそうさ》に出発したのであった。ところが、サミユル博士一行の六十名をのせた『宇宙の女王』号の消息はまったくわからず、テッド隊は不安のうちにも捜査をつづけているうちに、怪星ガンの捕虜《ほりょ》となってしまったわけだ。ところがこんなところで、ばったりとサミユル博士と出会うとは、なんという奇縁《きえん》であろうか。
「ほんとに、あなたは、サミユル先生」
テッド隊長は、ほんとになんべんも目をこすって、まえに立つ半白《はんぱく》の老探検家を見なおした。
「ふしぎなところで会ったね。どうして、こんなところへきたのかね」
老探検家は、健康色の顔に、ほおえみを見せて、テッド博士にきく。
「わたしたちは、先生のご一行を救援するためにこっちへやってきたのです。不幸にして、このとおり怪星ガンの捕虜となってしまい、われらの目的ももう達せられないかとなげいていましたのに、とつぜんここで先生にお目にかかるなんて、ふしぎというか何というか、びっくりいたしました」
テッド博士の話を老探検家はうなずきながら聞きとった。そして強く博士の手をにぎりかえした。
「ありがとう。よく捜しにきてくれた。これまでに苦労をたくさんかさねたことだろう。くわしい話を聞きたいが、わしの家まできてくれないか」
「はい。どこへでもおともをします。あ、それからご紹介します。これが隊員のポオ助教授。それからケネデー軍曹。帆村探偵、三根夫君です。どうぞよろしく」
「おお、みなさん、よくはるばるきてくだすって、ありがとう。隊員もどんなによろこぶことでしょう」サミユル博士のことばに、三根夫は、
「先生。すると、『宇宙の女王《クィーン》』号にはいっていた隊員は、みんな無事なんですか」
と、きけば、博士はちょっと表情をかたくし、
「まあ、いまのところ無事です。もっとも、一時は隊員のはんぶんが重傷を負うやら、なかには死ぬ者もあったが、いまはみんな元気です。このことはあとでゆっくり、お話しよう」
と、ここではそれから先のことを話したがらなかった。一同はサミユル博士の家のほうへ歩きだした。三根夫は、目をみはり、耳をそばだてて、町の両側に注意し、いきあう人にも注意した。
広場といい、道路といい、地球のうえで見る広場や道路にかわらないようであった。道路の両側にならんだ店や家も、地球の上で見るそれらとあまりかわったところがなかった。もっとも店は、たいへん美しく飾りたてられてあり、商品は豊富であった。料理店が店頭にかかげてある料理の品目も、おなじみなものばかりだった。だが、三根夫は、ついにかわったことを発見した。
「ねえ、帆村のおじさん。このへんの店は、へんですね」
帆村に話しかけた。帆村はにやりと笑って三根夫を見おろした。
「何に気がついたのかね」
「だって、へんですよ。店には、だれも店番をしている者がないじゃありませんか。どの店もそうですよ」
「なるほど。それから……」
「それから? まだ、へんなことがあるんですか」
三根夫は小首をかしげて考えこむ。
「ああ、そ
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