て。お月さまは、一つだけのものだと思っていました。火星には、月が二つもあるのですか」
「そうだよ。小さい月がデイモス、大きい方の月がホボス、そういう名なんだ」
「へんな名前ですね。一度じゃあ、おぼえられないや」
 と、千二は、首をふった。
「デイモスにホボスだよ」
「あっ、先生、こっちの大きいお月さまは早いですね。もう、あんなに動きましたよ」
「そうだ。ホボスの方は、たいへん早くまわるのだ。一日のうちに、火星のまわりを三回ぐらいまわるのだ。デイモスの方は、一日では火星のまわりを、まわりきらないのだ。三十時間しないと、一回分まわらないのだよ」
「火星って、実に不思議な国ですね。お月さまが二つあったり、それがたがいに反対にまわったり、それから一方のがのろのろしていて、他方のがかけ足で三回もまわったり、ああ、ぼくらの地球とは、まるで違うのですねえ」
 千二が、目をまるくして火星の月をみていると、その二つの月は、ぐんぐん近づいて衝突しそうに見えた。
「あっ、お月さまの衝突だ!」
 千二は、思わず、そう叫んだ。火星の二つの月が、反対の方向からだんだん近づいて、衝突するかのように見えたのである。

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