かりにぶつかるので、平気にとりすましてはいられないのである。千二となると、この少年は、なまじなんにも知らぬだけに、かえって先生よりも、ずっと楽な気持でいた。
 だから、三人の中で、このところ一番やつれの見えるのは、新田先生であった。それも、やむを得ないことで、先生にたいして同情しなくてはならない。
「博士、地球とモロー彗星の関係は、そののち、どうなったでしょうか」
 おお、モロー彗星のことか! 先生も千二も、ともに丸木艇を追うのにいそがしく、モロー彗星のことさえ、すっかり忘れていたのであった。さっきの晩餐会が、先生の気持をゆるめ、そうして今まで忘れていた大切なことを、一度に思い出させたのであった。
 先生が、それを口にすると、千二少年も、にわかにそれに気がつき、
「ああ、そうだ。モロー彗星は、もう地球に衝突するところでしたね。ああ、たいへん。どうなったでしょうね」
 と言って、先生の顔と博士の顔を、見くらべた。
「ああ、モロー彗星のことか」
 と、博士は、なにごとかを考えるかのように、顔をあげて天井の隅を見つめた。
「わしの記憶に、まちがいがなければ……」
 と、蟻田博士は、大きく息を
前へ 次へ
全636ページ中555ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング