って、下を向いた。少年は、きっと父親のことを思い出したのであろう。
「博士」
 と、新田先生は、博士の腕をつかんで、
「すると、あと二十四時間後には、生きのこった地球の人間は、わたしたち三人だけということになってしまうのでしょうか」
 と、しんけんな顔で言った。
「そうだ。われわれ三人は、地球の最後の生きのこり者となるかも知れないのだ」
 蟻田博士は、新田先生の問いに答えて、そう言った。
「はーあっ、そうですか」
「ふうん」
 千二少年は、先生と顔を見合わせて、大きなためいきをついた。
 あれほど多い地球の上の人間が、蟻田博士と新田先生と千二少年との、たった三人になってしまうとは、何というさびしいことであろうか。いや、さびしいなどということは、後まわしとすると、実に驚くべき大事件である。地球が生まれて二十億年になる。そうして人間の祖先があらわれて八十万年になる。このかがやかしい歴史をもつ地球がくだけて、たった三人の人間しか生きのこらないとすれば、一体、何と言っていいかわからないが、のこる三人の上に、たいへんな重荷を背負うことになる。そうではないか。生きているうちに、この三人は二十億年の地球の歴史を書きのこしておかねばならないのだ。三人が死んでしまえば、地球のことは、全くだれも知った者がいなくなるのである。ことごとく地球の歴史を書くなんて、そんなことは、とても三人の力で、出来そうもない。
 ああ、地球はついに、空中で火花が消え去るように、消えてしまうのであろうか。
 蟻田博士は、どういうものか、前からこの地球の崩壊ということについて、あまり気にかけていないが、新田先生はそうはいかなかった。先生は千二をうながすと、地球のよく見える下の部屋の窓のところへいった。
「おお、見える。あれが、地球だ。もうお月さまよりも小さくなった。ああ、こっちに、斜に金の箒《ほうき》をたおしたように見えるのが、にくいモロー彗星だ」
 千二も、まっくらな空に、気味わるくにらみあっている二つの星をながめて、ぞうっとした。
「あと、二十四時間で、ふたたび、あの美しい地球が見られなくなるのか」
 窓のところに、千二少年の手をひいて立つ新田先生は、そぞろに悲しかった。今まで忘れたり、がまんをしていたのが、ここで、急に先生の胸の中に、悲しいものをなげちらしたのだ。
 千二も、さっきから、さびしい思いにとざされていた。
 しかし、ここで新田先生のひどく悲しんでいる様子を見ると、少年は、この上自分が悲しがってはならないと思った。そうして、出来るなら先生をなぐさめてさしあげたい。もっと元気にしてあげたいと思ったのである。
「ねえ、先生。地球のことは、もう、僕たちの力でどうにもならないんですから、あきらめましょうよ。先生のお父さんやお母さんや、それから、しんるいの方もお友だちも、たくさんいらっしゃるのでしょうが、もう、こうなっては、しかたがないではありませんか」
「うむ。――千二君に慰めてもらおうとは、思っていなかったよ」
 と、新田先生は、顔をあげて、のどを、ごくりと鳴らした。
「いや、もう、悲しまないよ。今、もう地球のために悲しみじまいだと思って、最後の悲しみを味わっただけさ」
 と、先生は、涙をはらい、
「しかし、今にして私たちは、日頃勉強の足りなかったことを、しみじみと感じる。地球の上に、蟻田博士のような学者がもう一万人――いや一千人でも五百人でもいい、それだけの学者がそろっていて、そうして思う研究がやれたら、わが地球は、火星に襲撃されたり、モロー彗星につきあたられたりしないで、よかったんだ。きっと、それを防ぐ手があったに違いない」
 あと二十四時間後に崩壊し去るであろうところの地球の姿を、新田先生と千二少年とは、しばし無言のまま眺めつくした。
 あの美しいまん丸なすがたも、今しばらくのことである。また、今この大空艇からは、光る地球の面に、アジヤ大陸の一部が、ぼんやりとした輪郭を雲間から見せているが、あのあたりに、祖国日本の国があるのだ。それも、もう間もなく見られなくなるのである。
 千二少年は、新田先生をはげますため強いことを言ったが、こうして、最期に近い地球の顔を見ていると、やっぱり胸がふさがり、あつい涙がこみあげてくる。
(お父さん!)
 と、千二は心の中で呼んでみた。
(お父さんは、今どうしているだろうなあ。お父さんは、地球がこわれることを知っているのだろうか。それを知っているとしたら、今、どんな気持でいるだろうか。もしや、『千二や、千二や』と、ぼくの名を呼びつづけているのではないかしらん)
 千二もやはり人の子であった。強くなくてはいけないと思いながらも、やはり父親とのわかれは、つらかった。
 なんとかして、彼の父親を助ける工夫はないものか。いや、地球人類
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