ありません。ひきつづき丸木艇のあとを追っています」
と、先生は、すぐ報告をした。そうして、席を博士にゆずった。
博士は、どうしたわけか、のぼせたように、頬を赤くしていた。そうして席につくと、すぐさま二人の方へ顔をむけて、
「まだまだ、道中はながいから、お前たち、こっちの寝室へいって、ねてきなさい」
と早口で言った。
蟻田博士は、千二と新田先生とに、寝室へ引取って、寝てこいというのだ。
二人は、博士の言葉がだしぬけだったので思わず、目と目を見合わせた。だが、火星まで、丸木艇を追っていくときまれば、まだまだ先はとおい。ここらで休息をしておくことは、いいことであろうと思ったので、新田先生は、
「じゃあ千二君、あとを博士におねがいして、しばらく、寝てこようではないか」
と、千二をさそった。
もちろん、千二は、先生の言葉にしたがった。二人は、寝台のついている別室にはいった。
その寝台というのは、ちょっと風がわりな形をしていた。それは、ちょうど列車の網棚を、もっと深くしたようなかっこうになっていて、体を入れると、すっぽりとはいり、下に垂れさがる。しかも取附けられたその寝具の蒲団は、体を入れたあとで、蒲団の合わせ目をそろえ、内部から、チャックという金具を引くと、まるで袋のようになってしまうのであった。
「先生、この蒲団は、おもしろいですね。なぜ、こんなことになっているのでしょう」
と、千二が言うと、先生は、
「これかね。これは、つまり天井と床とが、逆になっても、ちゃんと寝ていられるように、つくってあるのさ。そうだろう。逆になれば、反対に、ぶらりと、さがるのだよ」
と、説明をこころみた。
「なるほど、おもしろい寝台だなあ」
千二は、目から上を、蒲団の外に出して、笑っていたが、そのうちに、つかれが出て、ぐっすり寝こんでしまった。
それからあと、どのくらい、眠ったのか、千二は、よくおぼえていない。ふたたび気がついたときは、千二は、だれかに、しきりに名をよばれていた。
「おい千二君。へんなことがあるから、ちょっと起きたまえ」
千二は、ねむい目をこすって、寝台の中から、首を出した。
「あ、先生。どうしたのですか」
と、先生の顔を見ると、先生の顔色は、まっ青であった。ただごとではないらしい。
「おい、千二君。博士のようすが、へんなのだ。われわれは、かくごをしなければならないぞ」
先生は、そう言って、いたましい顔をした。
「どうしたのですか。くわしく、話をして下さい」
千二には、わけがわからなかった。とにかく千二は、ふとんを開いて下へおりた。
「いいか、千二君。おどろいてはいけない。この大空艇には、いつの間にか火星兵団のやつが、しのびこんでいたのだ。しかも、二人だ」
「えっ。火星兵団のやつばらが、ここにいるのですか」
「そうだ。しかも、その二人は、博士を両方からかこんでいる。博士は、なれなれしく、二人と話をしている。何を言っているのか、話はあついガラスにへだてられて、わからないがね。とにかく、博士は、火星兵団のやつと、一しょに組んでいるらしい。いや、それにちがいない」
「そうですか。博士は、また、気がかわったのかしら」
「われわれを、控室へひきとらせたのも、われわれが、操縦室にいては、都合がわるいからだ。もう、こうなれば、かくごをきめて、たたかうだけたたかって、たおれるばかりだ」
「そうかなあ。博士は、なぜそんなに、急に気がかわったんだろうなあ」
と、千二は、いつまでも小首をかしげている。
「千二君。君は博士の変心が、信じられないらしいね。では、あそこまで来て、あの部屋をのぞいてごらん。すると、それがわかるから……」
「じゃあ、火星兵と博士が話をしているのが見えるところまで、つれていってください」
と、千二は、先生に言った。
「よろしい。しずかに、足音をしのばせて、こっちへ来たまえ」
先生は、せまい廊下を、先に立った。
まったく、困ったことだ。この大空艇に、火星兵がのりこんでいるなんて。
これが、地上でおこったことなら、博士と火星兵とをそこへのこして、一時にげだす手もあったが、このように、空中での出来ごとである。しかも、空中といっても、あたり前の空中ではない。このあたりは、もう空気がない空間である。外へにげだすことは出来ない。空気がないから、死んでしまうだろう。それに、第一、代りのロケットも、なんにもないのである。
千二は、先生のあとから、ついていった。そうして足音をしのばせつつ、ようやく操縦室の次の部屋まで来た。
先生は、扉の上についている小さいのぞき窓のふたを、そっと、よこにうごかした。
「ほら、まだ、三人とも、話に夢中だ。さあ、ここから、のぞいてみたまえ」
千二の背のたかさでは、その窓が、すこし高すぎ
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