しょに振り廻されていた。
河合少年は、部屋の隅へはねとばされ、器械の枠《わく》の間に狭まれてしまった。そのうちに頭が下になり、足が上になったので、その枠から外《はず》れそうになった。彼はおどろいて枠にすがりついた。それから智恵をしぼって、手に挾まったロープで自分の身体を枠にしばりつけた。
ほっと一息ついて、皆の様子をうかがうと、あっちでもこっちでもものすごい怒号《どごう》と叫喚《きょうかん》ばかり。それでいて人影は一向はっきりせず、その代りに、しゅっと青い火花が閃《ひらめ》いたり、塵塊らしいものが真赤になって室内を南京花火のように走り廻ったりするのが見え、彼の胆《きも》をそのたびに奪った。
彼は、仲間の三少年がどうしているだろうかと心配した。誰も声をかけて彼を尋ねてきてくれないところを見ると、皆死んでしまったのではなかろうか。いや、彼さえこの器械の枠の間から動くことができないんだから、彼の友だちもそれぞれどこかへつかまって、ふるえているのではなかろうか。とにかく何とかしてデニー博士以下われらの生命を助けたまえと、ふだんは我慢づよい河合も遂《つい》に神の御名《みな》を唱《とな》えたのだった。
河合少年の祈りが神様のお耳に届いたせいでもあったろうか、さしもの大椿事《だいちんじ》も、ようやくにおさまった。あの耳をうつ震動音の響もいまはどこへやら。また怪物のようにひゅうひゅう飛びまわった火の玉の塵塊も、今は姿を見せなくなった。そして艇は、以前のように安全状態に戻ったのであった。
「おーい。生きている者は、こっちへ集ってこい」
「おう、今行くぞ」
乗組員の呼び声が、ぼつぼつ聞え始めた。それはたいへんお互いを元気づけた。
河合少年は、もう大丈夫だと思ったので、自分の身体を巻いていたロープを解き、自由になった。久し振りに床を踏んだが、足はふらふらで、その場に尻餅をついてしまった。
「おうい、河合少年、しっかりしろ」
誰かが彼に呼びかけた。
誰だろうと、声のする方を見上げると、それはマートン技師だった。彼は横に傾いたまま、舵輪を握って、艇の針路を定めていた。
「ああ、マートンさん。怪我はなかったんですかねえ」
「ああ、何ともないよ。どうだ恐ろしかったか」
「ええ、びっくりしましたよ。で、本艇はだいぶやられたようですか、無事に飛んでいるのですか」
「さあ何といっていい
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