乗って、同じ速さで飛んでみよう。もし急いでこの宇宙塵の渦巻を突切ったりしようものなら、本艇はものすごい塵塊に衝突して、火の玉となって燃えだすであろう。しばらくは我慢する外《ほか》はない」
博士は、忍耐の時間がきたことを、マートン技師に説明した。
こうして二時間ばかりを、本艇は何事もなく至極《しごく》平穏《へいおん》に送ったのであった。その間に、火星の表面は、すこしばかり西へ位相を変えた。火星の極冠は、いつも眩《まぶ》しく、一つ目小僧の目のように輝いている。その他のところは、或いは白く、或いは黒く見えているが、黒いのは多分陸地で雪のないところにちがいない。そしてその陸地はいくつも点々として存在しそして蜘蛛《くも》の巣のように、直線的なものでつながれているように見える。火星の運河というのは、そのことであろうが、果して運河であるか、どうか、それはもっと先にならねば分らない。
「あっ、四象限《よんしょうげん》へ舵一杯!」
突然、老博士が叫んだ。と同時に、操舵席のマートン技師の前に、赤い警告灯がつき、そしてその下を、電光ニュースのように数字の列が流れた。
「はいっ、四象限へ舵一杯」
と、マートン技師は舵をうんと引き、それから、流れる数字に従って舵を合わせた。この数字は安全航跡を示すもので、例のテレビジョンが自動的に測ってしらせて寄越すものであった。
それはよかったが、次の瞬間、艇ははげしく鳴り響き、そして震動した。
「落着いて、マートン。四象限へ舵一杯、もっと一杯」
「はい、もっと一杯、引いていますが、これで一杯です」
「あっ、危い!」
どど……ん。怪音と共に艇はぐらっと傾いた。そして二三度宙に放りあげられた感じであった。と、停電した。室内は応急灯だけとなり、人々の不安にみちた横顔へ深い影を彫りつけた。河合少年も、その中の一人だった。一体どうしたのであろうか。
遂に大混乱
操縦室の一同が、不安の底に放り込まれたとき、天井の高声器から、ひどくあわてた声が響き渡った。
「艇長。ピットです。第三舵が飛ばされてしまいました。宇宙塵塊のでかいのが、あっという間にその舵をもぎとってしまったのです。総員で応急修理中ですが、当分第三舵はききませんよ」
「ああ、わかった。元気をだして、できるだけ早くやってみてくれ」
第三舵の損傷が報告された。こうなると本艇の操縦は
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