の蔭に、月が小さく寄り添っている。
火星はどうしたであろう、見えるであろうか。
展望室をぐるっと廻って反対の窓にでる。あっ見えた。あの真赤な星だ。大きさは、もうお盆ぐらいに見える。あれが火星だ。あの毒々しい色の星に、一体何がまっているのであろうか。
火星の生物
「あいかわらず火星の表面は、ぼんやりと霞んでいるね」
いつのまにきたか、四少年の大好きなマートン技師が、彼等のうしろに立って、同じように展望窓から火星を見て、そういった。
「ああ、マートンさん。火星の表面はなぜあんなにぼんやりしているのですか」
河合少年は、こんなときに誰よりも先に質問したくなるのだった。
「ああ、霞んでいるわけをいいましょうか、あれはね、火星の表面には水蒸気があるからだ。地球だってそうだ。水蒸気があるから雲があって、今日だって大陸の形などよく見えやしない。火星の水蒸気は、地球の水蒸気と比べて二十分の一しかない。その割に、火星の表面がぼんやりしているわけは、もう一つある。それは火星の周囲をかなり夥《おびただ》しい宇宙塵《うちゅうじん》が取巻いているせいだ。宇宙塵てわかるかね」
「何だろうな、ウチュウジンて?」
ネッドが大きい目をぐるっと動かした。
「宇宙塵というのは、宇宙の塵なんだ。つまり星のかけらの小さいのが宇宙塵だ。これが火星の周囲をぐるっと取巻いている。だから火星の表面は一層見えにくいのさ」
マートン技師は自分の説明が少年たちにわかったかどうか心配げな顔である。
「宇宙塵は、なぜ火星のまわりに集まっているんですか」
張少年から質問が飛びだした。
「宇宙塵がなぜ火星を取巻くようになったかという問いだね。ううん、これはむずかしいことだ。いろいろ臆説はあるが、天文学者にもまだ本当のことはわかっていないんだ」
「学者にもわからないことがあるんですか」
ふしぎそうに張はたずねる。
「もちろん、そうさ。学者は世界にたくさんいる。しかしその人たちの説き得た自然科学の謎は、まだほんのわずかだ。これから先何億万年かかっても、その全部はとき切れないだろう。そのように自然科学の奥は深いのだ」
「そんなに永いことかかっても、わからないもんですかねえ」
河合少年は小首をかしげる。
「そんなに永いことかかってもわからないことを、今こつこつ一生けんめいにやっている学者なんておかしいです
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