でありながら、何だか様子がおかしい。
「おや、こんなところに窓があいている。今まで窓なんかなかったのに……」
と、河合がいいながら、そのふしぎな窓のところまで行って、外をのぞいた。
「おやっ、たいへんだ。皆早く来い……」
河合はのどが張り裂けるほどの声で、仲間をよんだ。ふだん沈着な彼は、一体何におどろいたのだろうか。とつぜんそこにあいた窓をとおして、彼は外に何を見たのであろうか。
空飛ぶ塔
窓|硝子《ガラス》に四人の少年が、めいめいの顔をおしつけて、顔色も蒼白に言葉もなく、ぶるぶる慄《ふる》えている。八つの目は、遙かに下方に向けられている。下には美しいコロラド大峡谷の全景があった。
ふしぎだ。夢を見ているのではなかろうか。地階の窓から、コロラド大峡谷の全景が見下ろせるはずがない。
が、事実ちゃんとそれが見えているのだ。絵ではない。映画でもない。テレビジョンでもない。実景が見えているのだ。その証拠に村が見える。白い煙を吐いて走っている列車が見える。おお、四発の旅客機さえ見えるではないか、その飛行機は、窓のすぐ向うを飛んでいる――いや、今すれちがって見えなくなった。
ふしぎだ。空中を飛んでいるぞ。それにちがいない。窓から外を見ていると……。だが、いつわれわれは飛行機に乗りかえたろうか。そんなことはない、ああ、そうだ。現にわれわれは、ちゃんと廊下に立っているではないか、本館の廊下の上に……。
しかし、窓から外を見れば、どうしてもわれわれは今飛行機の中にいるとしか思われない。大峡谷の景色は、さっきから思えば、ずっと小さくなった。その代り、ずっと遠方までの広い風景が一望の中に入っている。ふしぎでならないが、さっきにくらべて、もうかなり高度が増したようだ。
「おい、どうしたんだろう」
「どうしたんだろうね」
「気が変になったんだろうか」
「僕たちが四人ともいっしょに気が変になるなんて、あるだろうか」
「変だ、変だ、どうしても変だ」
「変どころのさわぎじゃないよ。僕たちは、空中へ放りあげられたんだ」
そういい切ったのは河合少年だった。さすがに彼は、このさわぎの中から一つの考えをまとめる力を持っていた。
「空へ放りあげられたって」
山木も張もネッドも、同時にそう叫んだ。
「ほら、下をごらん。あそこに見えるのは地上だ。地上があんなに小さく遠くなっていく
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