いのに笑っているのだ。R瓦斯の中毒なんだ、こうしてひどく笑い転げるのは……。さあ、この人達を僕たちの車にのせて病院へ連れて行こう。早くしないと、この善良にして不幸な人達は、笑い疲れて死んでしまうだろう。さあ、手を貸せ」
「よし。じゃあ大急ぎだ」
「おや、これは子供だね。東洋人だ」
 こうして山木たちは、マートン青年たちの手によって現場からはこび去られた。車上でも、山木たちは、はあはあひいひいと笑いもがき、それをそうさせまいと思っておさえつけるマートンたちの努力はたいへんなものだった。
 本部の地下室にある医務室へ、四人は一旦収容せられたが、そこに居合わせた医務員は四少年の病状を見て、
「これはなかなかの重態だ。ここに置いたのではうまく手当が出来なくて、危篤に落入るかもしれない。これはどうしても、サムナー博士の居られる本館病院へ送りつけないと、安心がならない」
 といって、ここでは十分の治療ができないことをはっきりさせた。そこでマートンたちは、笑いまわる四少年を再び車に乗せて、サムナー博士の居る本館病院へと移動させたのであった。
 本館というのは二十五|粁《キロ》ばかり西北方へ行った地点にあり、コロラド大峡谷を目の前に眺める眺望絶佳な丘陵の上にあった。それは一つの巨大なる塔をなしていた。しかもその塔は、西の方へかなり傾斜して、十度まではないが八度か九度は傾いていた。まるで魚雷が不発のまま突き刺さったような恰好である。そして小さい丸い窓が、点々としてあいているが、その窓の大きさは塔全体から考えると非常に小さく、どこか八つ目|鰻《うなぎ》の目を思わせるところがあった。
 塔の上は、天文台の屋根のように、半球を置いたような形をしていた。その外に、旗をあげるのにいいような斜桁《しゃこう》や、超短波用らしいアンテナが三つばかりあり、まるで塔がかんざしを刺したような形に見えた。
 マートンたちの自動車は、この塔の中に吸い込まれるようにして見えなくなった。がそのとき自動車が塔にくらべてたいへん小さく見えた。まるで赤いポストの方へ向って豆が転っていったほどであった。塔はすこぶる巨大なのであった。塔の全部をまっ赤に塗った巨塔が、丘陵の上に傾いて立っているところは何となくものすごく、そして不気味で、この土地に慣れない者はあまり永くこの塔を見ていられないといっている。
 この塔は何か。サム
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