いたが、それは元々この地球にはなかった瓦斯であり天文学者が火星にこのR瓦斯なるものがあることを報告したのに端を発し、この地球でも研究資料としてR瓦斯の製造が始まったのだ。R瓦斯は地球生物にどんな影響を与えるか。それについてこの赤三角研究団が今研究を始めているのであった。今回は、一般動物だけに限り、人間に対しては行わない。それは人間に対して行うにはまだ危険の程度が分らないからであった。今回の動物実験がすんだ上で、次回には更にあらゆる準備をととのえ、人間を試験台にすることとなっていた。今まで室内で研究した結果によると、モルモットなどは非常に強く作用して、顔をゆがめ転げまわって悶々とするそうだ。そして一時間後には死んでしまうという。この瓦斯は、今日は非常に重くし、試験地区以外へは移動しないように注意されていた。
さて時刻はどんどん過ぎていって、いよいよ午後三時となった。それまでに、この広い試験地区内は念入りに人間のいないことがたしかめられた。いるのはマスクをつけた団員と、四十個の檻の中に入っている動物だけであった。団員はその日瓦斯が放出されたら、動物の生態を調べる仕事や、またその瓦斯の中で発電機をまわしたり、エンジンをかけたり、喞筒《ポンプ》を動かしたりの重要な仕事を持っていて、今日は総出でやることになっている。
「もうすぐ瓦斯を放出するが、街道の方をよく気をつけているんだぞ。自動車がやって来たら、すぐ停めて他の道へまわってもらうんだ」
「はい、よろしい」
間もなくR瓦斯は、十五台の自動車に積んだタンクから濛々《もうもう》と放出された。黄《き》いろ味《み》を帯びたこの重い瓦斯は、草地をなめるようにして静かにひろがって行った。やがて檻を包み、岡を包み……あっ、たいへん、その岡の蔭から一台の牛乳配達車がふらふらと現われた。大きな箱に、乳をしぼられる牝牛の絵、そして貼付けられたる牛頭大仙人の大文字。これぞ間違いなく彼の山木、河合、張、ネッドの四少年の乗っているぼろ自動車であった。なぜ今頃、岡の蔭から現われたのか、彼等の自動車は何も知らないと見え、黄いろ味を帯びた雲のような瓦斯の固まりの中へずんずん入って行く。さあ、たいへんなことになった。
瓦斯《ガス》中毒
四少年の自動車にはラジオ受信機が働いていないことが、この椿事《ちんじ》の原因だった。ラジオを聞いて注意
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