話し合ったが、よく分らない。その翌日午前から午後へかけて、ネッドは張と共に走る箱車の中に入ったきりで外へは殆んど出ずに、何か夢中で仕事をしているらしかった。
 やがて約束の午後四時となった。
 ネッドは、箱の中から運転台のうしろの羽目板を叩いて、自動車を停めよと信号した。
 車は停った。
 ネッドは箱から出て来た。
「ちょっとした工事をするから、手伝ってくれよ」
 どこへ工事をするのかと思っていたら、ネッドは車の側に箱を置き、その上にのぼると牛の画の腹の下にハンドボールで穴を円周状《えんしゅうじょう》にあけた。そのあとで金槌《かなづち》で真中を叩いたから、ぽっかりと窓があいた。
「何をするんだ、ネッド」
 河合はおどろいて、尋ねた。
「さあ、こんどは僕の腰掛けを高いところにこしらえるんだ」
 ネッドは山木と河合を手伝わせて、箱の後部の上に、猿の腰掛のようなものを横に取付けた。そしてその上へ掛けてみて、
「さあ、いらっしゃい、いらっしゃい」
 と叫んだ。
「何だ、見世物か。ははあ、この穴から中をのぞくんだな」
 山木はその穴に目を当ててのぞいたが、ぶるっとふるえて身体を後へ引いた。
「うわっ、たいへんだ。角の生えたへんな動物が、この中に入っている。いつ入ったんだろうか」
「へえ、角の生えた、へんな動物だって……」
 河合がびっくりして、山木に替って穴から中をのぞいた。
「なあんだ、張が笑っているだけじゃないか」
「そんなことはないよ」
「さあさあ、この幕を張るから、みんな箱車の屋根へのぼって手伝え」
 ネッドの声が、頭の上に聞えた。どこから出して来たか大きな文字の書いた幕を手にしている。よく見るとそれは自分たちの天幕だったが、文字はネッドが書いたものらしい。その幕を、ネッドのいうままに、箱自動車の上に横へのばして張ってみて呆れた。
[#ここから2字下げ]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
“神秘なる世界的占師、牛頭大仙人はここに来れり。未来につき知らんとする者は、ここに来りて牛頭大仙人に伺いをたてよ。即座に水晶の珠に照らして、明らかなる回答はあたえられるべし。料金は一切不要、但し後より何か食糧品一品を持ち来りて大仙人に献ずべし”
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
[#ここで字下げ終わり]
 たいへんな宣伝文だ、ネッドの作文にしてはうますぎる。ひ
前へ 次へ
全82ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング