イの音楽が、軽快なワルツにかわった。
「さあ踊ろうや。ぼくたちの仕事だ」
ネッドは張を引張りだして踊りはじめた。すると、さっきからすっかり温和《おとな》しくなったブブンもそれを真似して踊りだした。そのうしろにいたたくさんの火星人群も、また共にワルツの曲に合わせて舞いはじめた。
河合が、こっちの険悪な場面を心配して、思い切ってまた音楽を始めたことがたいへんよかったのである。
山木とギネの間には、打合わせがどんどん進んで、デニー博士をギネたちがおだやかに訪問してくる申合わせもついた。
音楽にあわせて火星人の舞踊はだんだんにぎやかになって行き、音声を発して踊り回る姿はまことに天真らんまんであった。
四少年と火星人の交歓は、ますますうまく行って、牛乳配達車のまわりには火星人がいっぱい集って来た。そしてその横腹に書かれた牝牛の絵を指して、ものめずらしげに打ち興じるのであった。牛は火星にはすんでいないのだ。いや牛ばかりではない。馬も羊も鹿も見たことがないのだった。
火星での大きな動物といえば、蛙にちょっと似た動物が居るきりだった。もっともその奇獣(?)は猫ほどの大きさがあったが……。
四少年が、火星人をこの牛乳配達車に乗せてやると、火星人たちはますます上機嫌になった。彼等は箱の上に鈴なりになり、奇声をあげてわめきさけび、周囲で見物している彼等の仲間と呼びあって大よろこびだった。その中には、たくさんの火星の子どもが交《まじ》っていたが、彼等は身体がたいへん小さく、犬の子ぐらいであった。しかし大きな頭に大きな目玉をぐるぐる動かし、短かい触手をふりたてるところは火星人の大人とかわらなかった。かわっているところは、首から下が非常に短くて、ほうずきの化物みたいに見えた。
大団円
さてこの物語も、ここらで結末に入らなければならない。
火星探険団長のデニー博士たちと火星人の会見は、四少年の下工作が功を奏してたいへんうまく平和的にいった。そして火星と地球の間にやがて定期航空をひらくことと、火星と地球の間に互いに不足している資源を融通しあうこと、もう一つ両者の間に文化学術の交流を行うことについて一応諒解が成立した。これは博士にとっても意外な大きな収穫だった。博士が火星航空路に成功しただけでもすばらしい収穫であるのに、なおその上にこの功績を加えたのであった。
それ
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