なことだろう。おれたちは、ちゃんと地球人の言葉を知っているぞ、だからこうして君たちと話をしているんだ。あっはっはっは。どうだ。分ったかね。地球人はわれら火星人に比べて、ずっと文化程度が低いのだということを……」
そういわれてみると、山木は言いかえすすべを知らなかった。たしかにそうである。地球の者で火星語を知っている者も、それを研究していた者もひとりもないのだ。デニー博士さえ知らない。しかるに火星人はちゃんと地球語をあやつって話している。これによって火星人の方が地球人よりすぐれているのだといわれても、言いかえすことが出来ないのだった。
だが、一体火星人はどうして地球語をおぼえたのであろうか。
最後の努力
少年たちの形勢は悪くなった。
山木は言葉もなく、ブブンに言い負かされた形だ。ブブンの大きな眼玉がぐるぐると動き、彼の頭に生えている触角が蛇のようにくねくねと気味わるくゆらぐ。
ネッドは心配のため、呼吸が停まりそうになって、張にすがりついた。
「おい張、ぼくたちは一体どうなるだろうね」
地蔵さまのように立っていた張は、ネッドの手をやさしくなでてやった。そしていった。
「大丈夫だ。心配するなよ。今にうまく解決する」
「ほんとうかい。でも、相手のけんまくは相当強いぜ。逃げてかえろうか」
「まあ待て、動いてはよくない。ぼくのように落付いているんだ」
「だめだよ。ぼくは落付けやしないよ」
「ネッド」
「なんだ、張」
「お前は忘れたか、牛頭仙人のことを」
「ああ牛頭仙人……それはお前のことだ」
「そうだろう。お前はいつも大仙人のことを信じていた。その大仙人は、さっきからひそかにあの霊現《れいげん》あらたかなる水晶をなでてて、占っていたんだ。ほら、水晶はこのとおりぼくの腰にぶら下っている袋の中にあるんだ。占ってみると、たしかに今の急場は大丈夫しのげるとお告げが出たぞ。安心しろ」
「え、お告げが出たか。そうか。そんなら安心した」
ネッドは急に元気になっていった。
「それにしても、このむずかしい場面が、どうしてうまく解決するのだろうか」
ブブンはなおも声高にどなっていた。そのときとつぜん、音楽が始まった。牛乳配達の自動車の運転台にひとりで待っている河合が、電気蓄音器を鳴らし始めたのだ。その曲はトロイメライ。聞いていると眠くなるような夢の曲がチェロによって奏
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