へんなことになったもんだ」
崖下は川の一部分であったが、水のない河原で、青草がしげっていたのは何より幸いであった。かの競技用自動車は、崖から落ちて何回かくるくるひっくりかえって転げたらしく、もうすこしで流れにとびこみそうなところで、腹を天に向けていた。それに乗っていた二人の少年は、一人がすぐ崖下に、一人はそれから十メートルも先に投げ出されていた。
山木と河合は、崖をつたわって、ずるずると下に滑《すべ》り下りた。
「やあ、やっぱりそうだ。ネッドだ!」
河合が、たおれている少年を抱きおこして、その顔を見て叫んだ。
「ええっ、ネッドか。かわいそうに、もう息をしていないか」
「ああ、息がとまっている。もう死んでしまったんだよ、かわいそうに……」
山木と河合は、たまらなくなって、この黒い友達の顔の上へ涙をぽろぽろおとした。こうなると知ったら、むりをしてでもネッドたちを箱自動車のうしろにでも別の車にのせて引張ってきてやるのだったと後悔《こうかい》した。
そのとき、ネッドの死骸が大きなくしゃみをした。ネッドの死骸が、山木と河合の腕の中で、ぶるぶるっと慄《ふる》えた。山木と河合はびっくりしてネッドの死骸を放り出した。
「ああああッ。僕はもう死んでしまったのかい。ああああッ、それはなさけない」
ネッドは妙なふるえ声で叫んだ。そして目をぱちぱちやった。
山木と河合は事情をさとった。ネッドは死んでいなかったのだ。
「ネッド、起きろ、大丈夫だから起きろ」
「あたいをコロラド大峡谷《だいきょうこく》まで、一しょにつれていってくれるかい。それを約束するなら生き返ってもいいよ」
ネッドは、際《きわ》どいかけひきをやった。山木と河合とはふき出した。
「生き返るのがいやなら、ここでいつまでも死んでいるがいい」
「それよりも張《チャン》を見てやろうよ」
「張も死んだまねをしているのじゃないか」
山木と河合とは、張の方へ走り寄った。張は仰向けになって伸びている。
「あ、血が出ている。これはほんとうにたいへんだぞ」
「おい、張、しっかりするんだよ」
「龍王洞《りゅうおうどう》の仙人さま、死んじゃ損ですよ」
ネッドもいつの間にか傍へよってきて、張少年に声をかけた。
「ううッ。痛い……」
皆の呼ぶ声が、張に通じたと見え、彼は呻《うな》り声《ごえ》をあげ、顔をしかめた。
張は死んだのでは
前へ
次へ
全82ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング