細いことであった。
「どうしたらいいだろうか」
「困ったねえ」
 と、張とネッドが顔を見合わせて、今にも泣き出しそうだ。
「おい河合、どうしたらいい」
 山木に呼ばれた河合は、落とし穴へもぐりこんで車体をしらべていた。
「おーい、皆安心しろ。車は大丈夫だぞ」
「だって河合。車がいくら大丈夫でも、穴ぼこの中にえんこしていたんじゃ仕様がないじゃないか。役に立ちゃしないもの」
「ううん、大丈夫。皆、手を貸せよ。車をこの穴ぼこから上へひっぱりあげればいいんだよ」
「なんだって。穴ぼこから、車をひっぱりあげるって。そんなことが出来るものか。ぼくたちは子供ばかりだし、自動車は重いし、とてもだめだよ」
 ネッドがそういって肩をすくめた。
「大丈夫、もちあがるよ。ぐずぐずしていないで、皆穴の中へ下りて来て、手を貸した。さあ早く、早く」
 張とネッドと山木は、河合のことばを信じかねたが、しかし河合がしきりに急がせるのでしぶしぶ穴の中へ下りた。
「さあ、こっちから押すんだぞ。一《い》チ、二《に》イ、三《さ》ン。そら、よいしょ」
「よいしょ、おやァ……」
「よいしょ、よいしょ」
 意外にも、箱自動車は動き出して、穴の斜面をゆらゆらとゆれながら上へ押しあげられて行った。やがて、ちゃんと元の沙漠へ自動車はあがった。
「変だね。この自動車はなんて軽くなったんだろう」
「それはそのわけさ。さっきもいったろう。火星の上では、地球の場合にくらべて重力は約三分の一なんだ。だからなんでも重さが三分の一に感じられるんだよ」
「へえ、そうかね」
 あとの三人は目を丸くした。
「まだ信じられないんなら、ためしに大地をけって、ぴょんぴょんととびあがってごらん。びっくりするほど高くとべるから」
 河合がそういったので、一番茶目助のネッドが、早速ぴょんととびあがった。
 と、あらふしぎ、ネッドのからだはボール紙を空へなげたようにすうっと軽くもちあがり、三人の少年の頭の上よりもはるかに上までとびあがった。
「やあ、あんなに上までとびあがったぞ。まるで天狗みたいだよ」
「やあ、これはおもしろい。もっととんでやれ」
 ネッドはいい気になって、ぴょんととび、またぴょん、ふわふわととび、それをくりかえした。そのたびに、お尻につけている太い狸の尻尾が宙にゆれて、じつにおかしかったので、皆は火星人の大群を前にひかえている危険をさ
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