遂に最悪の事態を迎えて、デニー博士の顔は深刻さを増した。
乗組員たちは、大急ぎで空気服を着はじめた。大きな靴、ぶかぶかの鎧《よろい》の様な脚や胴や腕、蛸の頭の様な丸い兜、空気タンク、原子エンジン発電機。みんなの姿が変ってしまった。
「割合に軽いね。へんじゃないか」
「火星の上では、重力が地球のそれの約半分なんだから、地球で着たときよりはずっと軽く感じるのさ」
「そうかね。これでどうやらすこし火星人に似て来たぞ。彼奴らも空気服を着ているのかしらん」
「まさかね」
そのとき乗組員たちは、デニー博士の前に四人の少年が並んだのを見た。どうしたわけだろうか。四人の少年は、揃いも揃って、お尻に大きな尻尾を垂らしていた。
四人の少年は、デニー博士にしきりに何かいう。博士は、分った分ったと、手をあげて合図をする。やがて博士は、四人の少年の手を一人一人握って振った。すると彼らは、博士の前から動きだして、部屋を出ていった。いったいどうしたことであろうか。
「諸君におしらせすることがある」
デニー博士は、空気兜についている高声器を通じて乗組員たちに呼びかけた。
「ただ今、ごらんになったろうが、河合、山木、張《チャン》、ネッドの四少年が来ていうには、彼ら四名は、われわれの使者として、火星人たちのところへ出掛けたいと申し出た」
「それは危険だ。停めなければいけない」
と、誰かが叫んだ。
「もちろん余も再三停めたのだ。しかし少年たちの決心は岩のように硬かった。少年たちは平和手段によって、火星人との間になごやかな交渉を開いてみるから許してくれというのだ。余は遂に四少年の冒険――四少年の好意を受諾するしかないことを悟った。実際、われわれはこの調子で進めば、火星人と一騎打を演ずるしかないのだから……」
博士は言葉を停めた。こんどは誰も口出しする者がなかった。
「われわれはこの艇内に停り、四少年の成功を神に祈りたいと思う。もしこのことが不成功に終ったとすると、われわれは次の運命を覚悟しなければならぬ。……さあテレビ見張器の前に集るがよい。そこの窓から外を見るがよい。……ああ、あの音は、マートン技師が四少年のために、艇の腹門《ふくもん》を開いているのだ。今に彼らは艇を出て、姿を見せるだろう」
博士の言葉が終ると間もなく、乗組員一同は、わっと歓声をあげた。
「おお、行くぞ。われらの少年団が
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