みさんは心細くいった。
「それはそうと、源ちゃんに、わたしお礼を何かあげたいんだが、何がいい」
矢口家のおかみさんは、生命などをすくってもらった礼に、源一に何か贈りたいが何がいいかといって、きかなかった。源一はさんざんことわったが、おかみさんはぜひというので、源一はふと心に思いつき、
「それでは、おかみさんの店の焼跡《やけあと》から、この角のところの一坪の地所を私にゆずって下さいませんか」
といった。
おかみさんはもちろん承知して、その場で譲渡証《じょうとしょう》を書いてくれた上、土地の登記《とうき》について矢口家の弁護士への頼み状までそえてくれた。これが源一が一坪の土地の持主となったいきさつである。
焼けあと整理
銀座の焼けあとの一坪の土地を、とうとう自分のものにすることができた飛島源一《とびしまげんいち》は、天にものぼるうれしさで胸がいっぱいだった。
「さあ、ここで、ぼくはすばらしい仕事を始めるんだ。なにしろ、こうして見わたしたところ、まだ誰も店をひらいていないじゃないか」
源一は、今日から彼の所有となった一坪の焼け土の上に立って、あたりをぐるっと見まわした
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